過去の成功体験から離れられない

1955年以降の高度経済成長期は、人口増に伴い国内市場が拡大し、企業にとってはモノを作れば売れる状態が続きました。そのような環境下では、「いかにモノを効率よく生産し安価に供給できるか」が企業の競争力の源泉であり、日本企業はそれを実践してきました。

具体的には、企業ごとに独自のサプライチェーンを構築し、人材は終身雇用制度や新卒一括採用などで固定化し、供給者主導のビジネスモデルを行ってきました。

しかし、近年の成熟社会で需要が飽和状態になり、モノをいくら効率よく作っても売れないようになると、過当競争がより進む一方で、これまで競争力の源泉だった独自のサプライチェーンは簡単には変えられず、人材も社内で囲い込んできたため成長分野への移動がままならず、労働市場が硬直化している状態です。

つまり、現在の日本経済は「高度経済成長期から残存する供給体制」が、「飽和した国内市場における需要不足」に見合っていないという構造課題を抱えているのです。

こうした中で人口が減少に転じると、過度の「将来不安」が広がり、期待成長率が下がることで、投資も消費意欲も減退してゆき、ますます需要不足とのギャップが慢性化する体質に陥っていきます。

このように、人口減少時代へと潮目が変わったにもかかわらず、過去の成功体験に基づく産業や社会の仕組みを変え切れずに長年にわたって苦しんでいるのが、今の日本です。

暗いオフィスで疲れ切った男性が目元を手で覆っている
写真=iStock.com/AnVr
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それでは、これから日本はどのように変わっていけばよいのでしょうか。

どうやって「新たな需要」をつくるか

日本が長期停滞を脱して経済成長していくためには、いかに「新たな需要」を創出できるかがポイントです。

「新たな需要」を創出できるシナリオを見いだし、日本が将来的に成長できるという“期待”を持てるようになると不安が解消され、構造的なミスマッチを解消することにつながります。

しかしながら、人口が増加する時代に高度成長を果たしてきた日本にとって、人口の減少局面では過去の方程式は通用しません。まさに、人口減少を前提にした「新たな需要」を生み出すための、大胆な発想の転換が必要です。

そこにおいて、私は「価値循環」という考え方を提案します。

「価値循環」とは、ヒト、モノ、カネ、データといった全てのリソースを「回転」させ、さらに「蓄積」することで経済価値を高めていくという考え方です。