日本のドラマが世界的ヒットを狙うには、どうすればいいのか。テレビ業界ジャーナリストの長谷川朋子さんは「ストーリーや演技のよさだけでは世界では戦えない。Netflixで配信中の『今際の国のアリス』が世界的ヒットになったのも、ほかの日本発ドラマにはない迫力ある映像を作り込んでいるからだろう」という――。

アジア作品はアジアの中だけでヒットしてきた

今でこそ日本のドラマも文化や言語の壁を超えて世界ヒットを狙えるようになったが、ひと昔前はトム・クルーズの『トップ・ガン マーヴェリック』のようなハリウッド映画ばかりに世界的人気が集中し、アジア人が出演する英語以外の言語の作品はチャンスがなかなか回ってこなかった。ドラマだとなおのこと、問題外だったと言い切れる。アジア作品はアジアの中だけでヒットする。それで以上だった。

物理的な要因は大きい。映画であれば、各国で配給までこぎつける必要があり、ドラマであれば各国の放送局に売る必要があった。流通経路が限られていたわけだが、技術の進歩も味方につけながら、ストリーミングメディアが台頭したことで流れは大きく変わった。Netflixはその代表格にあり、流通の弊害を取っ払っていった。サービスの棚に並べば、理論上はどの国のどの作品も横並びで見られる機会が作られている。

そんななか、英語以外の言語でNetflix最大の世界ヒット作が生まれた。韓国ドラマ『イカゲーム』だ。2021年に大ヒットしたこのイカゲーム効果によって、韓国ドラマ人気は今もなお続く。一過性のブームに終わらなかった。

「3億超え」を記録する日本発の世界ヒット

アジア作品にも目が向けられていくなか、日本のドラマの中では漫画原作のNetflixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』が成功した作品に挙げられる。

ある日突然“今際の国”に放り込まれたアリスがウサギと出会い、死と隣り合わせのゲームへの参加を強いられながら、“今際の国”の存在の謎を追いかける物語を描き、山﨑賢人がアリスを、土屋太鳳がウサギを演じている。映画『キングダム』などを代表作に持つ佐藤信介監督がメガホンを取り、元ROBOTで現在THE SEVENでCCOを務める森井輝プロデューサーが企画から立ち上げ、制作された作品だ。

2020年にシーズン1(全8話)、2022年にシーズン2(全8話)がNetflixで全世界配信され、シーズン2は90以上の国と地域でNetflix人気ランキング「TOP10」入りの実績を残し、シーズン1と2を合計した視聴時間は約3億6800万時間再生に上る(1月22日現在)。

世界的に影響力の大きいNetflixで好結果を残すことができた理由はひとつに限らないが、誰もが納得するものにあるのが、スケール感のある映像表現だ。実際に『今際の国のアリス』は物語の核となるゲーム会場が変わるたびに魅了させ、見どころのシーンでもったいないと思わせる画作りは一切なかった。

『今際の国のアリス』
写真提供=Netflix