日本の演劇やコンサートでは「S席のチケット」を買っても、ステージから遠かったり、端の見えにくい席になる場合もある。日本女子大学の細川幸一教授は「S席のSは、『スペシャル』の略だろう。ところが多くの劇場で『名ばかりのS席』が目立つ。これは事業者の都合で不誠実だ。日本の観客はもっと怒ったほうがいい」という――。
座席
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席種の表示をめぐって消費者庁が初めて措置命令を出した

最近、コンサートチケットの席種をめぐる問題が話題になった。2022年5月に東京ドームで開催されたロックバンド「L'Arc~en~Ciel」(ラルク・アン・シエル)の結成30周年記念ライブで、購入した座席と実際の席種が違っていた、という問題だ。

消費者庁が2月15日、コンサート提供事業者3社に景品表示法に基づいて措置命令を行った。

発表によれば、記念ライブは、S席よりさらにグレードの高いSS席を1階アリーナ席に配置していた。座席表には、SS席を購入すれば1階アリーナ席、S席を購入すれば1階スタンド席、A席を購入すればバルコニー席か2階スタンド席でコンサートを見られると表示していた。

しかし実際は、SS席やS席を購入しても1ランク下の座席に割り当てられるケースがあった。記念ライブ数日前に急きょ変更されたという。

消費者庁は、この表示が景品表示法の優良誤認にあたるとして、コンサート事業者オン・ザ・ライン(東京都港区)、ボードウォーク(同千代田区)、マーヴェリック・ディー・シー(同渋谷区)の3社に措置命令を行った。

コンサートの座席に関する景表法違反で措置命令を出したのは初めてとのことだ。

SS席の客に、S席やA席を割り当てる

記念ライブのチケットは、席によって最大2倍の価格差があった。会員シート・SS席2万2000円、S席1万6500円、A席は1万1000円だ。

当初、SS席は約3300席だったが、実際には約7200席を販売していた。つまり、1階アリーナのSS席を購入した客に、S席やA席にあたるスタンド席を割り当てたわけだ。

記念ライブの専用サイトには「座席図はイメージとなります。ステージや座席レイアウトは予告なく変更になる場合がございますので、あらかじめ了承ください」と記載されていたという。

座席を販売するときに席種をシートマップに示し、「予告なく変更になる」などの条件を示したからと言って、席種を勝手に変更するなど許されないし、消費者が怒るのも当然だ。

決して安くないチケットを購入し、ライブを楽しみにしていたファンの気持ちを思えば、なおさらだ。この問題は決して些細ささいなことではない。本件は表示上の席種と実際の席が異なっていたという特殊な例だが、そもそも日本にはS席が多すぎるのだ。

筆者はかねてより、消費者(ファン)を軽視する事業者側の姿勢に疑問を感じてきた。本稿で改めて問い直したい。