日本人の歌舞伎離れが進んでいる。日本女子大学の細川幸一教授は「特に本丸である『歌舞伎座』の客層は高齢者ばかりで、日によっては半分も埋まらない。伝統と慣習に重きをおくなかで、高齢者からも若い世代からも見放されてしまっている」という――。
人気俳優が揃い、伝統的な演目が並ぶのに
東銀座は松竹の本拠地だ。主に歌舞伎座、新橋演舞場で歌舞伎等の興行を行う。500メートルほどしか離れていないこの2つの劇場の1月の公演はともに歌舞伎だ。歌舞伎は松竹演劇の最大看板。歌舞伎座では歌舞伎座新開場十周年と銘打って「壽 初春大歌舞伎」、新橋演舞場では初春歌舞伎公演・市川團十郎襲名記念プログラム「SANEMORI」が上演中だ。
二つの劇場の歌舞伎興行ははっきり明暗を分けた。
歌舞伎座は客の入りが悪く、日によっては座席の半分ほどしか埋まらない。筆者が鑑賞した日は、1等の2階席は8割ほどが空席のガラガラ状態だった。一方の新橋演舞場・團十郎公演はほぼ即日完売で、チケット入手がかなり困難な状況だ。
歌舞伎座公演は3部制で松本白鸚、中村梅玉、市川猿之助、松本幸四郎、中村勘九郎、片岡愛之助、中村七之助、市川染五郎など、幹部俳優・人気俳優が揃い、伝統的な演目が並ぶのにこの状況だ。なぜこれほど不人気なのだろうか。
コロナ規制が終わっても高齢者は戻らず
コロナ禍で歌舞伎座は長期の休場も余儀なくされたし、開演時も販売座席を半分以下に抑え、日本特有の観劇スタイルである劇場内で幕ノ内弁当などの食事を楽しむことも禁止となった。食堂、弁当売り場も閉店した。2020年5月から3カ月間予定されていた市川團十郎襲名記念興行も延期せざるを得なかった。
ようやく販売客席数も通常通り(幕見席は販売停止中)となり、飲食も可能となったが相変わらずの不人気ぶりだ。
東京では浅草公会堂で若手俳優が競演する「新春浅草歌舞伎」、国立劇場では尾上菊五郎ほかで、令和5年初春歌舞伎公演「通し狂言 遠山桜天保日記―歌舞伎の恩人・遠山の金さん―」も上演中だ。東京で同じ月に歌舞伎4公演は多すぎるのか、「SANEMORI」以外は客の入りは良くなく、1月14日時点でこれらの3公演は満席の回がまったくない。