観客が面白いと思える伝統歌舞伎が必要だ
新橋演舞場での2人の共演に、日ごろ歌舞伎を観ないような世代の人々が集まった。20~30代くらいの若い世代が、伝統的な枠組みを踏襲した歌舞伎を楽しんでいた。歌舞伎離れが進む現状において、この共演が示した成功体験は大きい。
歌舞伎はやはり、時代背景、登場人物が現代人には理解しづらいこともあるので、有料の同時解説「イヤホンガイド」がある。その機器の貸し出しコーナーに若い女性が殺到している風景に驚いた。ただ、ジャニーズアイドルを観たいというのではなく、この機会に歌舞伎を理解しようとする姿勢がみてとれた。
昭和41年に開場した半蔵門の国立劇場が建て替えられる。55年が経ち、老朽化したということだが、あぜくら造りの素敵な建物で内部も豪華かつ美しく、もったいない。しかし、施設を運営する日本芸術文化振興会が改装ではなく抜本的な建て替えを選んだ背景には「伝統芸能離れ」への危機感があるという。伝統芸能としての歌舞伎も危機的な状況になっているということだ。
問題は観る側の環境変化だ。着物を着る機会が減り、生活様式も、近代化する前の日本とは様変わりだ。そうした状況のなかで、着物を着て髷を結い、刀を差す武家社会の慣習や美意識、義理と人情といった世界を描写する伝統的な歌舞伎を現代人が面白いと思い続けるだろうか。歌舞伎界が人々の環境変化に対応しなければ、伝統芸能離れはきっと止められないだろう。
宮舘涼太はSnow Manのメンバーのひとりとして「滝沢歌舞伎ZERO」や、阿部亮平と市川海老蔵自主公演「ABKAI」に参加するなかで、その素質を團十郎に見い出され、単独で「歌舞伎俳優」としての道に踏み出した。そして、大勢の観客の動員に成功し、一公演ではあるが、歌舞伎を環境変化に順応させた。
松竹は主に歌舞伎俳優のみによる伝統的な歌舞伎演目は格式を重んじる歌舞伎座、実験的な公演は新橋演舞場等で行ってきたが、歌舞伎の本丸も大改革を迫られているのかもしれない。そこでのキーパーソンは紛れもなく團十郎だ。