このように海外事例を見てみると、日本の劇場がいかに「名ばかりのS席」であふれているかよくわかる。東京の歌舞伎座や新橋演舞場も、帝劇の席種設定の方針に近い。明治座は1、2階は全席S席、3階はA席ともっと大雑把な席種の公演が多い。
例えば、歌舞伎座の1等席(S席に相当する)には2階席も含まれる。だが、前回記事で指摘したように、近年は空席が目立つようになっている。
消費者が納得できる席種の設定を
消費者は商品やサービスの対価として金銭を支払う。通常は商品の価値と支払う金額を比べ、その金額を支払う価値があるかを判断する。
だが、消費者にとってサービスの内容は事前に見えにくい。演劇やコンサートの場合、その公演内容とともにステージの見やすさがサービスの質を決める。座席の選択はその意味で極めて重要な判断材料である。
現在、劇団四季が東京・有明の四季劇場で「ライオンキング」をロングランで公演している。その料金を見ると欧米型に近い。料金は会員価格と一般価格に分けられ、公演ごとに「ピーク」「レギュラー」「バリュー」の3区分がある。
席種もS1、S、A1、A2、B、Cときめ細やかで、客席の左右での見やすさの違いも考慮されている。子ども料金もある。未来のファン獲得にも熱心だ。
しかし、日本の演劇やコンサートは、席種は指定できても席番号まで事前に指定できない場合もある。また常設劇場ではない巡業の演劇などでは席種表が示されていないケースも見られる。かなり不親切であり、不誠実だ。
これまでの大雑把な席種をやめ、座席に応じたきめ細かな価格帯を設けるべきだろう。もちろん観客が好きな座席を選べるようにすることが前提となる。
一部の人気俳優・歌手の公演・コンサートを除いて、新型コロナ感染拡大後の観客の戻りは悪く、客席がガラガラの場合も目立つ。消費者庁から不当表示とされた「L'Arc~en~Ciel」記念ライブの一方的な席種変更問題は消費者軽視の姿勢から出たものであろう。日本のエンタメ界にはいま一度、消費者目線を持つ必要がある。