NHK新会長は、今度こそ改革を実行できるのか

稲葉延雄会長が率いるNHKの新体制が1月25日に船出した。

1万人を擁する巨大NHKのトップが外部から起用されるのは6代連続で、稲葉会長は日本銀行の理事やリコーの取締役会議長を務めてきた輝かしい経歴をもつ。

就任記者会見するNHKの稲葉延雄会長=2023年01月25日、東京都渋谷区のNHK放送センター
写真=時事通信フォト
就任記者会見するNHKの稲葉延雄会長=2023年1月25日、東京都渋谷区のNHK放送センター

だが、放送を取り巻くメディア環境が激変する中、「公共放送」からネット時代にふさわしい「公共メディア」へ進化しようというNHK創業以来の歴史的転換期のかじ取りを、メディアとはほとんど無縁だった人物に任せられるだろうか。

受信料やスリム化などNHK改革をめぐる論点はたくさんあるが、もっとも重要な焦点は「NHKは国民のための報道機関であるかどうか」であることを肝に銘じておきたい。

受信料を払う視聴者の見えないところで人事が決まる

NHK会長をめぐる人選は、常に政治性を帯びてきた。

たとえば、安倍晋三政権下では、会長としての資質はさておき、安倍元首相に近い人物が選任されたといわれる。就任早々、「政府が右ということを左というわけにはいかない」と、安倍政権が喜びそうな発言をして顰蹙ひんしゅくをかった人物もいた。

今回も水面下で、岸田文雄首相と菅義偉前首相との間で綱引きがあったとか、岸田首相のいとこの宮沢洋一・自民党税調会長が橋渡ししたとか、さまざまな臆測が流れた。

実際、最終決定の直前まで、朝田照男・元丸紅社長の名が取り沙汰されていたが、土壇場で官邸サイドが巻き返して、稲葉氏に決まったともいわれる。

稲葉会長を選任した経営委員会の森下俊三委員長(元NTT西日本社長)は「自主性・自律性が必要とされる日銀で長年、日本経済の発展に貢献した」と選考の理由を説明したが、自主性や自律性はどんな組織でも最低限備えていなければならない条件で、NHK会長に求められる適格事由として十分とはいえない。

「みなさまのNHK」のトップが、なぜ稲葉氏に決まったのか、受信料を払っている視聴者からは、まったく見えないままだ。

選考過程の不透明性を問題にして、元経営委員の小林緑さんが共同代表を務める市民団体が、独自に前川喜平・元文部科学事務次官を会長に推す動きもあったほどだ。

朝日新聞や毎日新聞の担当記者も、人選の透明性を高める必要性を訴え、詳しい事実関係を明らかにしない経営委員会の姿勢を厳しく糾弾している。

「公共」を標榜ひょうぼうするNHKのトップを決める過程は、一般企業とは違って、基本的にオープンでなければならないだろう。