一流の人はメールや手紙でどのような書き言葉を使っているのか。人気の国語講師・吉田裕子さんは「顔の見えない相手のことを思いやり、慎重に、心をこめて書くという、手紙の精神をメールにも取り入れることで、他の人とは一味違う、上品な文章に仕上げることができる」という――。

※本稿は、吉田裕子『[新版]大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

パソコンを使用する女性の手元
写真=iStock.com/maruco
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話し言葉と書き言葉は語彙の水準が違う

面と向かって「厳寒の候、○○さまにおかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」と言われたら、驚きますね。しかしこうした表現は、文書や手紙の書き出しには当たり前に使われます。話し言葉と書き言葉は、語彙の水準が違うのです。

本記事では、とくに書き言葉でよく用いる表現をいくつか紹介します。ぜひ参考になさってください。

「ご自愛じあいください」

自身の健康を気づかうこと
例文 時節柄じせつがらくれぐれもご自愛ください。

拝啓なら敬具、前略なら草々をセットで使うというように、手紙を書くにあたっては、さまざまなしきたりがあります。時候の挨拶ではじめ、相手の体調を案じる言葉でしめくくるというのも、一つのしきたりです。

そうしたしきたりを守って手紙を書くのは、なかなか骨の折れること。ただ、「顔の見えない相手のことを思いやり、慎重に、心をこめて書く」という、手紙の精神を日常的なメールにも取り入れることで、他の人とは一味違う、上品な文章に仕上げることができます。

たとえば、ビジネスメールであれば、「いつもお世話になっております」ではじめ、「今後ともよろしくお願いいたします」と終わるのが一般的です。そこに、一工夫加えてみてはいかがでしょうか。幾度かやり取りをした、そのしめくくりとなるメールの末尾に、「どうぞご自愛ください」などとひと言添えるだけでも、印象は変わります。ビジネスライクになりがちなメールに、あたたかみが生まれるのです。

「ご自愛ください」というのは、自分自身の体を大切にすることを呼びかける表現です。

手紙でよく使用され、「何とぞご自愛専一せんいつになさってください」のような言い方もできます。「専一」は、「他のことをかえりみず、そのことを最優先に」という意味の言葉です。

「お体に気をつけて」と伝えるなら、古風で奥ゆかしい言いまわしとして「おいといください」もあります。この「いとう」は、いやな状態を避けられるように、いたわり、気をつけるという動詞です。

寒い時季には、「お風邪など召されませんように」というフレーズもぴったりです。

〈関連〉御身おんみお大切に」という、気づかいの言葉もあります。