日本各地の「フィルム・コミッション」こそ影の立役者
1話あたり数十億円もかけられたアメリカやイギリスのドラマ作品の場合、広大な土地で街全体を丸ごとセットで再現するようなケースは多々ある。韓国ドラマからもそんな事例が生まれ、韓国ドラマ史上最高額の制作費が掛けられたと言われるApple TV+オリジナルの『パチンコ』は、韓国と日本を舞台にしているが、実はニュージーランドで全て撮影が行われている。
残念ながら、現段階の日本は、ドラマや映画に数億円規模の制作費を投じるのは難しい。しかし、ストーリーや役者の演技がいくら良くても、没入感を邪魔するような映像表現では世界と勝負できないのが現実だ。
そんななか『今際の国のアリス』は今できる制作環境のなかで、日本各地にあるフィルム・コミッションが影の立役者となって成功した。限られた制作費であっても、撮影技術やセットの精巧度で見劣りしないレベルに引き上げている。工夫を凝らすことに長ける日本らしい話でもある。
大規模セットや最新の撮影技術に予算を投じる必要がある
北九州フィルム・コミッション上田秀栄事務局次長は「北九州や神戸で撮影される作品はテロやギャングを扱ったワイルドの作品が多く、直接的にインバウンドにはつながりにくい。それでも撮影協力するのは、生活のすぐ横にエンタメがあることが市民の誇りとして思えるから」だと話す。
こうした協力関係を築きながら、Netflixは新たな作品でも街の完全再現を計画する。Netflixで日本の実写作品を担当する高橋信一プロデューサーは3月22日に韓国ソウルで開催された「第1回APACフィルムショーケース」で「大規模セットを作り、VFXなど最新の撮影技術にも予算を投じていくのは、日本だけでなく、グローバルヒットを目指す上で必要なチャレンジにある」と語っていた。
『今際の国のアリス』と同じく麻生羽呂の原作を映像化する2023年公開予定のNetflix映画『ゾン100 ゾンビになるまでにしたい100のこと』はまさに新宿が舞台だ。歌舞伎町でゾンビパニックが起こる映像が披露されるという。
日本のどこかでひそかに撮影された作品がまたひとつ成功事例を生み出していくかもしれない。舞台裏にある誇りも支えに世界ヒットを狙う動きは続いていく。