大工道具を使ったことなし、大きな毛虫の襲撃も

菊川さんは理系出身ではないが美術と数学が得意で、昔からアートとしての建物に興味があった。だから、「建築の構造計算は独学で修得し、今回のツリーハウスも自分で設計した」という。

取説片手に四苦八苦して、工具や道具の使い方を手探りで学び、失敗を繰り返しながら、一歩ずつ前進
取説片手に四苦八苦して、工具や道具の使い方を手探りで学び、失敗を繰り返しながら、一歩ずつ前進(写真提供=ツリーフル)

ただ、机上で図面は引けるが、作るのは初めてだ。

大工道具の丸ノコも使ったことないし、水平・垂直・45度などを測定するツールである水平機という道具があることすら知らなかった。丸ノコでまっすぐな直線を引く際には欠かせない「丸ノコガイド90度」の存在も知らなかったので、原始的なL字定規で、鉛筆で印をして切ったそうだ。取説片手に四苦八苦して、工具とその使い方を手探りで学び、失敗を繰り返しながら、一歩ずつ前進していった。

「何度も絶望的な気持ちになりました。でも、いくら失敗しても、自分が諦めない限り、これは成功の途中であると言い聞かせました」

それでも作業中に泣きたいことは数えきれないほどあった。

「ツリーハウスの床張りをしていて、下を向いて作業していたとき、首筋にぽとっと見たこともないでかい毛虫が落ちてきて、泣きたくなりました。すごくただれちゃって。ぶよにも刺されパンパンに大きく膨れ上がりました」

作業がなかなか前に進まず、しょんぼりして東京に戻ったとき、「ここではお金を出せばなんでも買えるし、手に入る。なんて優しい街なんだ」とつくづく思ったという。エネルギッシュに日々進化する都会の姿を目の当たりにして「俺、沖縄の森で何やっているんだ」と惨めな気持ちになることが何度もあった。それでも諦めなかった。

今は森の中にいることが多いせいか、視力が劇的に改善され、毎日が森林浴のおかげか、至って健康体なのだと笑う。