交通アクセスの悪い僻地に突如出現した「リゾートホテル」が人気を集めている。「ARTH(アース)」社長の高野由之さんは、世界で初めて水と電気を自給できるホテルを開発した。その狙いはどこにあるのか。テレビ東京の阿部謙一郎プロデューサーがリポートする――。
「ARTH(アース)」社長の高野由之さん
筆者撮影
「ARTH(アース)」社長の高野由之さん

「おしゃれなリゾートホテルとしか感じなかった」

2022年12月、静岡県・西伊豆地方の限界集落に、水と電気を自給できる、いわゆる「オフグリッド」の一棟貸しのホテルがオープンした。オフグリッドをうたう住宅はいくつかあるが、ホテルとなると、世界初だという。

高級ホテルを思わせる室内。そして目の前には駿河湾の雄大な景色が広がる。絶景を楽しみながら露天風呂に入ったり、テラスのデッキチェアでくつろいだりしたという宿泊客は、「電気や水のことを意識することはまったくなく、おしゃれで快適なリゾートホテルとしか感じなかった」と驚きの表情を浮かべた。

“SDGs関連ビジネス”としても注目を集める、この最先端のホテルを手がけたのは、創業8年目のスタートアップ企業「ARTH(アース)」(東京・中央区)。

ARTH創業者であり、社長の高野由之(38歳)は、かつて国内の大手メーカーで販売店を束ねる仕事に就き、ゴルフ接待や温泉旅館での宴会に全力を尽くす“昭和型サラリーマン”だった。20代半ばで当時の年収は約700万円。しかし、その安定を捨てて高野は31歳で起業した。「古民家ホテル」などの運営で急成長し、過疎地再生の面でも実績を上げるなど時代の最先端に躍り出たのだ。今期のARTHの年商は約10億円に上る見通しだという。

テレビ東京の報道特番「経済スペシャル サバイバーズ」(2月5日放送、配信あり)で取り上げた、“サバイバー”高野の成功の理由について、番組コメンテーター、成田悠輔・イェール大学助教授の見方も交えながら紹介する。

「1泊25万5000円」でも稼働率は99%

いま、世界的に「サステナブル・ツーリズム」という概念が注目を集めている。サステナブル・ツーリズムとは、観光客が旅行先を訪ねて楽しむだけでなく、そこに住む地域の文化を大切にし、地域住民の生活も豊かになることなどを目指した旅行のあり方だ。高級旅館に泊まる単なるゴージャスな旅とは一線を画すサステナブル・ツーリズムは日本でも静かなブームとなっている。

そのサステナブル・ツーリズムを静岡県・西伊豆で体現しているのがARTHだ。

拠点となっているのが、伊豆市土肥地区の古民家をリノベーションし、イタリアン・レストランなどに生まれ変わらせた「LOQUAT(ロクワット)西伊豆」。古民家と同じ敷地内にある、白壁の土蔵が源泉掛け流し温泉付きの宿泊施設となっていて、2人で宿泊する場合は1泊2食付きで、1人5万5000円から。決して安くはないが、リピーター率の高い人気ホテルとなっている。

さらに、2022年にはLOQUATの「離れ」として一棟貸し古民家ホテル「SUGURO」をオープン。1泊25万5000円(2食付き、2人の場合)にもかかわらず、昨年空室だった日は1日のみで、稼働率は99%だという。

LOQUATの「離れ」としてオープンした一棟貸し古民家ホテル「SUGURO」
写真提供=ARTH
LOQUATの「離れ」としてオープンした一棟貸し古民家ホテル「SUGURO」

ARTHのホテルの大ファンで、東京とニューヨークを行き来しながら暮らす米国人弁護士の男性は、「この宿のサステナビリティーの概念は、コミュニティー全体を考えたものだと思う。ここに泊まると、地域の一部になったと心から思えてくつろげる」と手放しで評価する。