※本稿は、長坂真護『サステナブル・キャピタリズム』(日経BP)の一部を再編集したものです。
百貨店の美術催事展で数億円を売り上げる
2021年秋、東京・日本橋三越本店で開催された僕の個展で『藁の革命』と銘打った作品が2億円で売れた。同年春に行った東京・伊勢丹新宿店の展覧会ではトータルで数億円の売り上げがあり、この金額は近年、伊勢丹新宿店で行われた美術催事展の最高額だったという。
日本橋三越本店での個展の総売り上げは、伊勢丹新宿店を軽く超えた。そして今、全国の百貨店から開催依頼が立て続けにあり、2年先まで展覧会のスケジュールはほぼ埋まっている。
ガーナで見た“資本主義の闇”
僕はほんの数年前まで、スマートフォンやタブレットなどのガジェットを転売する「せどり」で糊口をしのぐ、年収100万円の路上画家だった。それが一転、21年度には約8億円を売り上げた。印画紙を反転させるように世界が変わった理由はただ1つ。サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)という概念を考え、それに沿った行動をしたからだ。
僕は17年6月、世界最大の電子機器廃棄物処理場であり、「電子廃棄物の墓場」と言われるガーナ共和国のアグボグブロシーを訪れた。そこで見た光景は、まさに資本主義がつくり出した闇の世界だった。
ガーナの首都アクラの郊外に位置するアグボグブロシーには、先進国から毎年25万トンもの電子機器廃棄物が持ち込まれ、たまった量は東京ドーム32個分。そこのスラム街で暮らす3万人の住人は、電子ゴミを燃やして残った金属を売り、1日12時間働いて500円の賃金で暮らしていた。しかし、廃棄物には鉛や水銀、ヒ素、カドミウムなどの有害物質が大量に含まれているため、空気が汚染され、それを吸い込むことで、若くして病に蝕まれ命を落とす人もいるという現実を見せつけられた。
自分がせどりで稼ぐ道具にしていた電子機器が、その後アグボグブロシーに不法投棄され、現地の人々の命を縮めているのかと思うと自分を恨みたくなった。しかも幼い子どもたちも、電子ゴミの焼却を手伝っていた。
この現実に目を背けてはならない。だが、一介の絵描きにすぎない自分に、何ができるのか。辺り一面を覆う煙にせき込みながら、電子ゴミを使ってアート作品を作り、その売り上げを彼らに還元できないか、とひらめいた。
電子ゴミを作品にすれば、先進国の人がガーナの現状をリアルに知ることができるし、ゴミも減る。一石二鳥と考えた。