経済学者・成田悠輔さん「大企業と特異な個人の共存が必要」

大企業からベンチャーに転職したり起業したりする人は、増加している。

エン・ジャパンが運営する若年層向け転職サイト「AMBI(アンビ)」によると、2021年4~9月に大企業からスタートアップに移った件数は、18年4~9月比で7.1倍に増えている。こうした流れは止まらないようにも見えるが、成田悠輔・イェール大学助教授は、少し意外な見方を示す。

「大企業を捨ててスタートアップを始めるのがトレンドみたいに考えて、会社を始めたりスタートアップに移ったりするのは何か間違いのもと。その人自身にとって何が大切なのか、どういうことが得意なのかという、その人の個性や価値観があって、それに無理がない生き方を単純に選んだほうがいい」

「大企業に勤めるならば、その大きな仕組みをうまく回す歯車として、いかにそこを障壁なく摩擦なく動かしていくかに集中するほうがおそらく理にかなっている。大企業的なものと、特異なアイデアを持つ個人だからこそできるようなものが社会の中に共存しているのが正しい姿なのではないか。例えば、全国津々浦々どこに行っても駅前にあるビジネスホテルも必要。そういうものと、ARTHのホテルのようなものが共存している状態が大事なのではないかと思う」

静岡県沼津市舟山地区。伊豆半島からの景色が堪能できる
写真提供=ARTH
静岡県沼津市舟山地区。伊豆半島からの景色が堪能できる

次は高知県の苦境ホテルを買収、大改造

東京に住む、高野が今、毎週のように足を運ぶ場所がある。

それが、高知空港から車で西へ約3時間、“東京から最も遠い街”と言われるほど交通の便が悪い足摺岬(土佐清水市)だ。ARTHは2019年、経営難に陥っていた「足摺パシフィックホテル花椿」を買収。「TheMana Village」と名称を改め、大改装に乗り出しているのだ。

足摺岬(土佐清水市)にある「TheMana Village」。インフィニティープールが楽しめる
筆者撮影
足摺岬(土佐清水市)にある「TheMana Village」。インフィニティープールが楽しめる

古びた和室(写真)を少しずつ取り壊し、2部屋、あるいは3部屋をつなげた豪華な客室へとリノベーションを進めている。2部屋をつなげて改装した部屋(写真)の場合、宿泊料は、1泊2食付き1人あたり4万5000円から。

ここでは、一気にリノベーションを終えるのではなく、資金を調達できた分から順次改装していく型破りな手法を採っているが、集客力は以前に比べて格段に高まったという。

「ARTH」社長の高野由之さん
筆者撮影