キャリア形成は突出した能力よりも“掛け算”

高野が、まず目指したのは、繊維の問屋街として知られる、日本橋・馬喰横山エリアの古びたビルの再生だった。高野は、バックパッカーとして世界を回っていた経験から、6階あるうちの4フロア(2~5階)をインバウンド客向けのホステルとし、1階に、ホテルのフロントを兼ねたカフェをオープン。そして最上階を本社オフィスとした。

予想通り、ホステルは、外国人バックパッカーのニーズをつかみ、業績は急成長。コロナ禍では一時ピンチに陥るも、今度は4フロアのうち2フロアを、24時間制のフィットネスジムに改装することで、コロナ前よりも利益を上げられる事業構造に作り直した。

高野は、「事業は掛け算であり、総合格闘技のようなもの」と口にする。「一つひとつを見れば、自分には突出した能力はないが、“掛け算”は意識してきた」という。例えば、高野のキャリアは以下の4つの要素で構成されている。

① 父の姿を見て学んだ古い建物のリノベーションに関する感性
② バックパッカーとして世界を回った経験
③ 大学時代に打ち込んだ格闘技の経験
④ 事業再生ファンドなどで身に付けたファイナンスの知識

こうした要素をかけ合わせることが、これまでの成功につながったと感じるという。

「好きなことを追求し、それらを掛け算することが成功につながる」と考える高野。ただ、「ファイナンスに関する知識だけは好き嫌いではない」とも話す。起業するならば、最低限の“武装”は必要だとも考えている。

WEAZER西伊豆の様子
写真提供=ARTH
SUGUROの様子

三井物産、PwC、ソフトバンクからも

そんな高野の下には、より自由な発想での働き方を求めて、大企業を辞めて転職してきた優秀な人材が多い。

東大卒業後、三井物産で長年働いていた金井怜、世界4大監査法人の一つ、PwC出身で公認会計士の吉川弘志、ソフトバンクを辞めARTHの広報担当者となった藤田桃子らだ。ARTHのメンバーは必ずしも正社員ではない。業務委託などの形でARTHに参画している人たちが多いのも特徴だ。

本社にて
写真提供=ARTH
本社にて

また、ARTHでは、現役の東大法学部4年生、山川綾菜もインターンとして働いている。短期インターンではなく、東大を1年間休学し、ARTHが運営する高知県のホテルの主力スタッフとなっている。今後ARTHに就職する予定だという。

ARTHで働く人たちが共通して話すのは「自分が心からやりたいと思える仕事をしたかった」という言葉だった。