送電網も下水道もない場所がホテルになる

海外からも高い評価を受ける、LOQUAT西伊豆と“離れ”のSUGURO。そして、そこから車で10分ほど北にある沼津市舟山地区に、新たな施設として昨年12月にオープンしたのが、水と電気を完全自給できる、オフグリッド型のホテル「WEAZER(ウェザー)西伊豆」なのだ。

沼津市舟山地区は、急峻きゅうしゅんな坂が続く不便な場所にあり、過疎化も進んでいる。その一角に2022年12月に開業した「WEAZER西伊豆」は、古民家の再生物件ではなく、この土地にゼロから建てられた。1泊18万5000円(1棟貸し)だが、2月の予約はほぼ満室状態になっている。

電気と水を供給できるオフグリッド型のホテル「WEAZER(ウェザー)西伊豆」
写真提供=ARTH
電気と水を供給できるオフグリッド型のホテル「WEAZER(ウェザー)西伊豆」

一見すると、太陽光発電のパネルを屋根に載せた、普通の建物だが、送電網(グリッド)や下水道とは接続されていない。インフラ不要の「オフグリッド」をうたう住宅はいくつか存在しているが、バックアップとして送電網とつないでいるケースが多く、完全オフグリッドとなると極めて珍しい。

照明や空調設備に使う「電力」は屋根に設置した太陽光発電システムで賄いつつ、余った電力は、米テスラ製の大型蓄電池に貯める。悪天候が続き、太陽光発電が難しい日には、この大型蓄電池に貯めた電気を使う仕組みとなっている。室内で必要となる電気の量を、30年分の天候データなどから割り出し、そこから逆算で太陽光発電パネルの枚数や、蓄電池の数を決めている。

このあたりのノウハウは、ARTHが特許を取得している。

浴場
写真提供=ARTH

「インフラに頼らないホテルをつくらないと」

一方、「水」については、雨水を濾過することで確保している。トイレから流れる汚水と、洗面所などから流れる水は別々の処理システムとなっていて、トイレから流れた汚水は、トイレを流すための水、「中水」として再利用している。

また、宿泊利用者には、トヨタ自動車のEV(電気自動車)が貸し出されるが、緊急時はEVの電力を施設に供給するといった使い方も可能。さらに、驚くべきは、ホテルの建物は、工場で製造したユニットを組み立てる「モジュール式」。ユニットさえ出来上がっていれば、下水工事などの必要性がないため、組み立てる時間はわずか2日間で済む。

建物やシステムを含む「ベースモデル」の販売額は約1億円からだが、この1カ月余りで、購入などの問い合わせはすでに100件を超えているという。

それにしても、高野は、なぜこんなシステムを開発しようと考えたのか。

「アフリカのウガンダで、大学の先輩が和食レストランを開業していて、それを見に行ったときに、僕自身もウガンダでホテルを作ろうと思ったんです。でも、ウガンダって毎日停電が起きる。蛇口をひねってもきれいな水は出てこない。僕らの会社のビジョンは、世界中の美しい場所に滞在場所をつくること。そのためにはインフラに頼らないホテルを作らないといけないと思ったのが出発点です」