大手企業社員がアポなしで「働かせてほしい」と直訴

ツリーハウスホテルの運営を視野に入れつつプロジェクトをさらに進めるため、仲間を募った菊川さんは2020年に「ツリーフル」という会社も立ち上げた。社員は現在全13人、求人広告を出さない時も、その存在をインスタなどで知り、働かせてほしいと全国から優秀な人材が集まってきた。大手企業社員がアポなしでやってきたケースもある。ビルダーチーム、運営チーム、地上チームに分かれていて、今も新卒社員を募集中だ。ちなみに、草刈り係の正社員として、ヤギ(ドナちゃん)もいる。

正社員のドナちゃんと菊川さん。誰よりも懐いている。
撮影=山本貴代
正社員のドナちゃんと菊川さん。誰よりも懐いている。

菊川さんはどんな人かと聞くと、琉球大学で言語学と英語を学び、スイスのホテルやフロリダディズニーワールドでの勤務経験もある24歳のヒカリさん(運営チーム)はこう語った。

「常に新しいアイデアを生みだします。それを模索して実現させる力はすごい。本に載っていたらダメ。木を見ながら、みんなで考える。世界初ユニークなものをいつも求めています。私たち若い社員をがんばらせる力もあります」

テーマは、自然と人間との境界線をなくすこと。それは菊川さんとスタッフが共有するおきてだ。

現在、他のスタッフとともにホテル運営にたずさわっている菊川さん。もちろん本業の仕事もテレワークでしっかりこなしている。ツリーハウスを見上げながら現地を訪問した筆者にこう抱負を語った。

「ひとつ自慢があるんです。ここまで整備するのに、木をたったの1本しか切ってないんです。邪魔なものだと安易に排除せず、どうしたら森と仲良くできるか。それを常に考えています。自然と人間との境界線をなくすこと。太陽光を人間が独占しないこと。カーボンニュートラルよりもさらに環境にいいカーボンネガティブ(常にCO2吸収し、排出する二酸化炭素より吸収する二酸化炭素の方が多い状態)にすることを目指しています」

地面に太陽光が射すよう、木も切ることなく作られた通路。
撮影=山本貴代
地面に太陽光が射すよう、木も切ることなく作られた通路。

ビジネスであるからには儲けなければならない。しかし、自らに課したルールは守る。「野生動物が地面を歩けるように、そして植物も生えるようにしなければいけない」という決め事を厳守するために、建築物は全て地上から1.2メートル離して作った。要は、土地を建物で塞がない。階段も建物をつなぐ通路もどこからも太陽光が入る仕組みになっている。したがって、雨水もたまらず地面に自然に染み入るようになっている。