認知症になったら何もできなくなる、そう思っていないだろうか。精神科医として30年以上高齢者医療に携わっている和田秀樹さんは「よく知られている病気でありながら、認知症ほど誤解されている病はない。周囲の“ボケたのだからやめさせよう”という発想ほど、認知症の進行を早めてしまう」という――。

※本稿は、和田秀樹『ぼけの壁』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

新鮮な緑とシニア
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認知症に対する「誤解」

認知症になると「何もかもできなくなる」と思っていないでしょうか。

認知症は、「何もかもできなくなる」病気ではなく、少なくとも初期は一言でいうと「記憶できなくなる」病気です。初期は「記憶の入力」が難しくなり、症状が進むにつれて「長期記憶」が失われていく病気です。

つまり、初期は、新しいことを覚えられなくなり、中期以降は、これまで覚えていたことを忘れていくのです。

一方、記憶力は衰えても、初期、中期の前半あたりまでは、「知能」は正常に保たれています。この場合の「知能」とは、判断力や思考力という意味です。

そのため、「認知症」と診断されてからも、普通に暮らしていける人が少なくありません。実際、認知症患者さんには、一人暮らしを続けている人が大勢います。手慣れた家事をこなしたり、テレビやパソコンなどの機械も使い慣れたものであれば、使い続けられます。本や雑誌を読んだり、俳句をつくったりすることもできます。

挨拶や世間話もできますし、孫のお守りをさせると、認知症と診断されたおばあちゃんがいちばん上手ということもあります。

認知症で人間関係が改善した人も

なかには、人間関係が以前よりも好転するというケースもあります。じっさい、認知症を発症してから、「性格がよくなった」といわれる人が大勢います。

たとえば、社会的地位が高く、健康な頃はいばりちらしていた人が、認知症になると、性格が穏やかになるケースがあるのです。腰が低くなって愛想もよくなり、近所の人から「最近、ご主人、気さくに声をかけてくださるのですよ」などと、奥さんがいわれたりします。

仕事も、新しい仕事を始めるのは難しくなりますが、慣れた仕事であれば、十分続けることができます。