現代の医療でどこまで治療できるのか
残念ながら、今の医療水準では、認知症を根本的に治療することはできません。
ここで、あらためて、認知症の「定義」を確認しておきます。
医学用語辞典風にいうと、認知症とは「脳の損傷によって、それまで獲得された知的能力が低下した状態の総称」ということになります。
つまり、認知症は「状態の総称」であり、「病名」ではないのです。アルツハイマー病やレビー小体型認知症(これらは病名)などの100以上の病気によって、引き起こされる「症状」の総称が認知症なのです。
実際的に、臨床医が診察するときには、患者に「記憶障害」と「判断の障害」が認められ、「社会生活に支障」を来たしていると認められたときに、認知症と診断します。
つまり、「認知機能」が低下し、生活に支障の出ている状態を認知症と診断します。
そうした困った「状態」は、アルツハイマー病などの病気を原因とする脳の「変性」によって引き起こされるのですが、今の医学ではそうした「変性」をもとに戻すことはできないのです。
専門的にいうと、脳の変性とは、「神経細胞が減ること」「大脳が萎縮すること」「神経伝達物質が減少すること」「神経細胞内に神経原線維変化が起きること」などを指します。
完治はできないが、発症を遅らせることはできる
これらの変性は、現代の医療では、薬を使って、多少遅らせることはできるものの、根本的に食い止めたり、もとの健常な状態に戻すことはできないのです。
そのため、認知症の完治は難しいのですが、進行を遅らせることはできます。
薬も多少は役に立ちますが、それ以上に大切なのは、「できることをやめないこと」です。とりわけ、初期の間は、それまでと変わらない生活を送ることが、認知症の進行に歯止めをかけます。中期以降も「できること」を続けることで、病気の進行が穏やかになります。