上司は『エクセレントカンパニー』共著者

初仕事の舞台はいきなりサンフランシスコ。現地法人を置く日本企業のアメリカ進出をサポートする仕事だった。

現地に到着したその足でホテルに荷物を置くやいなやマッキンゼーのサンフランシスコ事務所を訪ねた。

事務所はサンフランシスコを代表する高層ビル、バンク・オブ・アメリカビルの48階にある。東京事務所に驚いていたら、サンフランシスコ事務所では心臓発作を起こしかねない。眼下にサンフランシスコ湾が広がり、左手にゴールデンゲートブリッジ、右手にはベイブリッジが海の向こうに霞んで伸びている。飛行機やヘリコプターが目線の高さで飛んでいるのだ。日本からゲストを連れて行くと、大方、眺望に見惚れて、話が耳に入らない。

案件を請け負ったチームのエンゲージメントディレクター(ED)、要するに総責任者の立場にあったのがボブ・ウォーターマン。「全部、キミらに任せたから」というタイプのトンデモ上司だったが、後に同僚トム・ピータースとの共著『エクセレントカンパニー』(1983年)で名前を売ることになる。

彼の下に現場を回す入社4、5年目くらいのエンゲージメントマネージャー(EM)がいて、ジェイ・アビーという男だった。ED、EMともにカリフォルニアのスタンフォード大学の出身。当時のサンフランシスコ事務所のメンバーは十中八九、スタンフォード出のMBAだった。

ビルのセキュリティーは今ほど厳しくなかったので言われるままに48階に上がり、アビーの部屋に通された。

さすがサンフランシスコ事務所、ロケーションだけではない。新人も含めてメンバー全員が個室を持っている。ディレクターともなれば応接室並みに大きな部屋があてがわれるのだ。