次に、2つ目の論点「女性だけの組織をつくることは、会社の儲けにつながるのか?」を検討する。

女性中心であることを前面に打ち出して成功している企業が大阪にある。不動産販売業を手がけるピルプワークだ。社長の石田明美は専業主婦を11年間経験した後、01年に起業。現在、石田を含む社員30人のうち28人が女性だ。

女性営業部隊の現場、「エフ・ステージ尼崎」マンションギャラリーにて。左が石田明美社長。

不動産販売のプロジェクトが始まると地元の専業主婦たちをパート社員で採用し、女性社員たちがリーダーとなる。不動産販売という「男の世界」で、女性が女性を率いる組織で成果を出し続けているのだ。リーマンショック後に急激に市場が冷え込んだ際も、倒産が相次ぐ中、あるマンション販売の案件を見事に売り切って顧客の信頼を勝ち取った。

「損益ギリギリのラインまで一気に値段を下げ、差額分の札束の模型をつくってモデルルームのテーブルに置きました。お客さんは『何ですか、これ?』とびっくり。『プレゼントです。はい、300万円』とね。エンターテインメントですよ。その後、他の販売会社は1000万円値引きしても売れなかったと聞きました。何事もタイミングと見切りが大事。私たち女性には思い切りのよさがあります。子どもを産んでますもん。怖いもんありません」

石田は言い切る。

「女性部隊は私たちの個性です。(他社の)男性部隊と共同販売することもありますよ。こちらが仕入れてきた案件なので、私たち女性部隊が上に立って指示をする関係です。同じ組織内でこれをやると女がエラそうにと反感を持つ男性部下もいますが、他社だとビジネスライクに互いの強みを活かしあえるのです」

女性ばかりの組織であることは、数ある不動産販売会社の中で光る個性なのだ。このピルプワークに比べて、セブン&アイや損保ジャパンの取り組みはどのように評価できるのか。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建に両社の事例を見せると、あまり気乗りしない表情になり、なぜか自宅の話を始めた。

「最近、僕の家に新しいシステムを導入しました。今まで台所の引き出しの中に入っていたお箸や調味料を食卓に近いところにまとめたんです。食べるときにすぐに出せる。すごくいいなと思っています。だけど、このシステム導入でわが家が決定的に幸せになったわけでもない(笑)。今回の事例も同じです。こういう話っていっぱいあるでしょう。裏紙を使うとコストセーブにはなりますよ。でも、インパクトがない。重要なのは(儲けという)成果に対するインパクトです」

楠木は、「それでどうなるの?」という問いに対する答えがずっとつながっていくのが戦略だと説明する。つまり、女性ばかりの職場づくりが明確な因果関係で会社の利益に太く結びつかない限り、有効な戦略だとはいえないのだ。

「(女性だけの職場づくりは)組織活性化の施策としていいことだとは思います。ただし、『もある』だと会社は変わらない。女性だけの支店もありますではなく、向こう10年間は女性しか採用しない、ぐらいじゃないと。それ以外の『社会的にいいこと』は商売とは関係ありません」

イトーヨーカドー高砂店や損保ジャパン新宿新都心支社を見学した限りでは、現場が生き生きしていると感じた。モデル店として社内外から注目されているという気概もあるのだろう。なんとか女性を活用しようと模索しているセブン&アイと損保ジャパンの前向きな姿勢は疑わない。単なる話題づくりや外面を整えるためではないのも伝わってくる。

しかし、自社なりの戦略を考え抜くことなく、思いつきでスタートした施策であるという感想はぬぐえなかった。5年後は「女性ばかりの職場」は存続せず、また別の女性活用施策が行われている気がする。次回は、経営層および中核部署の部長と課長を全員女性にしてみたらどうだろうか。そのほうがはるかに大きな変革になるはずだ。

(文中敬称略)

一橋大学大学院教授
楠木 建

1964年生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。同大学商学部助教授などを経て2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。