セブン&アイと損保ジャパンのケースで浮かび上がってくる論点は2つある。女性だけの職場をつくることによって、(1)組織が活性化して女性のリーダーが育成できるのか?(2)会社の利益拡大につながるのか? の2点だ。それぞれについて、企業経営者と識者の意見を聞いた。
ネイルサロンやフィットネスジムを全国展開するノンストレスは、320人の社員の9割が女性だ。社長の坂野尚子は1996年の創業以来、「女ばかりの職場」を率いてきた。しかし、女性リーダーを育てるために女性ばかりの職場をつくることは「言語道断。話題づくりにすぎない」と切り捨てる。
「当社は好んで女性社員が多いわけではありません。男性のネイリストも少数ながら在籍しています。できればもっと男性を採用したいくらいです」
ノンストレスの現場であるネイルサロンは女性スタッフ3、4人で運営することが多い。人間関係が原因で退職してしまうケースも少なくないという。
「男性がいれば遠慮できたり別のやり方が見つけられたりするのに、女性だけだと陰湿になってしまうこともあります。女性だけの職場はむしろマネジメントしにくいのです。(大企業が)あえて難しい状況をつくる意味がわかりません。女性を集めれば簡単に女性リーダーが育つと思うのは完全に男性目線の発想です」
一方で、坂野も女性リーダー育成には苦労している。ジェンダーで括りたくはないと前置きしつつも、出世や肩書に積極的な男性に比べると、女性は「偉くなりたくない。責任を負いたくない」という意識が強いと実感しているからだ。
坂野は、女性リーダーの育成には早めにポジションを与えて経験を積ませることに加え、子育て体験も効果的だと語る。
「子育ても部下育成も基本は同じ。思いどおりにならない他者を育てるからです。子育てから戻ってきた女性社員は人間的に成長することが多いと感じています」
ノンストレスの社内取締役は坂野を含めて全員女性。うち2人は産休中だ。現場のトップである「統括」も全員女性で、うち2人は2児の母である。
「ただし、女性同士だからといって子育て中の同僚をサポートするとは限りません。『何で自分だけ割に合わない残業をしなくちゃいけないの?』と不満の声を上げる独身女性もいます。真剣に女性リーダーを育てたいなら、企業は覚悟を決めなくてはなりません。1.5倍ぐらいの人員を雇って、産休中の社員などのフォロー体制を整えるべきです」
(文中敬称略)