経済成長とともに人々の幸福度は上がるのか。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「これまでの研究で、一国の経済が成長しても人々の幸福度向上につながっていないことが明らかにされてきました。それに加え、新しい研究では大人のみならず思春期の子どもの幸福度まで下げることがわかりました」という――。
「GDP」と書かれたニュースの見出し
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経済成長は子どもを幸せにするのか

経済成長は人々に多くのメリットをもたらします。

経済成長によって給与水準が上昇すれば、いろいろな物が買えるようになりますし、遠くに旅行へ行けるようにもなります。また、生活に余裕が出て健康にも気を使えるようになりますし、子どもにより良い教育を受けさせることも可能です。

このため、自然な発想として経済成長は人々を幸せにすると考えられます。

しかし、これまでの研究では「経済成長が人々を幸せにしていない」ともとれる分析結果が明らかにされています。

特に近年研究が進められてきているのが「経済成長が子どもの幸福度に及ぼす影響」です。

今回は経済成長と思春期の子どもの幸福度の関係について検証した、最新の研究について紹介していきたいと思います。

イースターリンのパラドクス

経済成長と幸福度の関係について、これまでさまざまな研究が行われてきました。その中でも特に注目を集めたのが南カリフォルニア大学のリチャード・イースターリン教授が1974年に発表した論文です(*1)

彼はこの論文の中で「一国の経済が成長しても、人々の幸福度の向上につながっていない」ことを明らかにしました。

経済の成長は人々に多くの恩恵をもたらすはずなのに、実際のところ幸せにつながっていないという結果は、「イースターリンのパラドクス」と呼ばれています。

なお、イースターリン教授はアメリカのデータを用いていましたが、日本のデータを用いた分析に大阪大学の大竹文雄教授らの研究があります(*2)。この研究では日本の1958年から1998年の40年間における日本の実質GDPと幸福度の指標の1つである生活満足度の関係を検証しています。

この分析でも「GDPが上昇しても、生活満足度が向上していない」ことが明らかにされています。

これらの結果から、「経済成長=幸せ」という構図に疑問が持たれるようになってきました。