「リスカは小学校4年生くらいからかな」

自傷をするのはおもに女性で、基本的に両手首のどちらか、二の腕、太ももなどに傷があります。右利きだと左手首を傷つけることが多く、カミソリやカッターで切った複数の細い傷が重なっています。タバコを押しつけた火傷や、ピアスの穴なども人によって自傷のニュアンスが含まれていることがあります。簡単に目視できるので、気にしているだけで発見できます。

ちなみに、不特定多数の異性と過剰に性行為を繰り返すのも自傷の一種といわれ、カラダに自傷がある女性は、性行為の自傷も経験している可能性が高くなります。記憶にある限り、自傷がもっともひどかったのは、上京して間もなかった東北出身の18歳のAV女優でした。

長袖シャツを着て腕を隠していましたが、あまりに傷が多いのと、傷が新しかったのですぐに気づきました。会話をはじめる前に気づいたので、筆者は「腕の傷、すごいね」と声をかけました。

中村淳彦『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)
中村淳彦『悪魔の傾聴』(飛鳥新社)

自傷は明らかにキーワードです。最初からどうしてリストカットがあるのかを聞きました。

「そうです。リスカ(リストカット)は、小学校4年生くらいからかな。それがリスカって知らないで、子どもの頃は腕じゃなくてお腹を切っていました。悪いことをすると怒られる、それと同じ。自分が悪いことをしたなって思ったとき、お腹を切った。最初はごめんなさいって気持ちかな。イジメられるってことは、私がなにかをしたんだろうなって」

最初からそんな話になりました。自傷のことを聞かれるのは、少なくとも嫌そうには見えません。語りながら自ら袖をまくりあげて、左腕を見せてくれました。凄まじい傷でした。

誕生日に自分がプロダクションに連絡してAV女優に

500くらいの折り重なった細い傷に、赤く腫れあがった縦の太い傷がありました。

「横のリスカは甘えって誰かが言っていて、私は甘えでやっていたわけじゃないから縦に切りました。AV女優になってからリスカはしていません。本気というのは、死んじゃうかもってことかな。別に死にたくはなかったけど、死んでもいいかなって。甘えと思われたくなかった」

【図表1】自傷の事例
自傷の事例(出所=『悪魔の傾聴』)

いったいなにがあったのかと聞き進めると、やはり過酷な生育環境がありました。小学校のときに徹底的なイジメに遭い、両親は離婚。好きだった父親が突然消えて、母親が毎日、家に男を連れ込むようになったそうです。母親は男性関係がうまくいかないとイライラして、彼女を虐待しました。そんなときにリスカ癖がはじまったようです。

中学を卒業してから家出少女になり、男性の家を転々としながら未成年売春を繰り返したそうです。年齢を誤魔化して風俗店で働き、なんとか先日18歳になっています。誕生日に自分からプロダクションに連絡してAV女優になりました。

「有名なAV女優になりたい。理由は小学校、中学校って、ずっとイジメられっ子だったから。有名になって見返したいと思っています」