「これで、いつでも、クビにできるんだからな」

さらに窪田さんは背筋が凍るほど予想だにしなかった言葉を、上司から浴びせられた。

「試験、合格したろう。これで、いつでも、クビにできるんだからな」

時は1990年代後半、Windows95が出たばかり。会社の行為が労働基準法に違反することや、労基署に訴えるなどの知識もなければ、調べる手段も限られた。じゃあ、と窪田さんはここで発想を転換した。

「自分が望んだわけではないのに、これで完全に組合員じゃなくなった。会社がこんな扱いをするなら、私も考える。試験をどんどん受けて、どんどん昇級しよう。向こうは嫌がらせのつもりだけど、それを利用しない手はない。行けるところまで、行ってみよう。だって、敵がそう来るんだから」

階段を上がっていく女性
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意地だった。給料を稼ぎたい、上へ行きたいという野心ではなく、不当な扱いを受けたことへの、精いっぱいの抗議としての昇級だった。

「一番上の級まで行きました。自動的に給料も上がって、一番多い時で、年収が1000万円を超えたこともありました」

最上の級まで行ったのが50歳の時だ。男性含めた同期の中で出世頭となった。

2度目の結婚

窪田さんは40代で、2回目の結婚をした。管理職となり、夜中まで無償で働いていた頃だ。相手は年上でフリーランスの仕事をしている。

「最初に、自分は女らしいことは何もできないと言いました。食事も作れない、掃除もできないと。すると、『それは僕がやる』と言って、次の週には私の世話をするために越してきました。前の夫の債務を被った借金のことも話しましたが、『一緒に返していこう』と。マジかと思いました。実際には私が自力で返済したため、彼に負担させずに済んだのですが。でも、私は結婚相手に経済力を求めていないので、ちょうどよかったんです。割れ鍋にとじぶたみたいな」

目の前の窪田さんがふっと、恥ずかしそうに微笑む。彼の料理がおいしいから、こんなに太ってしまったと。何とうらやましい、幸せ太りだろう。

コンビニの冷凍食品シリーズを、栄養補給の頼みの綱として生きていた窪田さんが、結婚したことできちんとした食事が摂れ、疲れている時は夫が会社への送迎も買って出てくれる。こうして夫の支えで、窪田さんはなんとか激務をこなしていた。