報告書ビリビリ事件

実は窪田さんも昔、とんでもない目に遭ったことがあった。

「成功したプロジェクトの報告書を作ったのですが、それを見た部長からビリビリに破かれました。課長が、『お前、部長のおかげって書かなかっただろう』って。驚きですよ」

報告書にすら、上司の実績をたたえないといけないという暗黙のルールがあるとは、ネットワークに所属していない以上、わかるはずもない。これも、男のメンツなのか。

くしゃくしゃになった報告書を引きちぎる男性の手元
写真=iStock.com/Viktoriya Kuzmenkova
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「現役時代、何度もいろいろな男性から言われたのが、『俺のメンツを潰したな』という言葉でした。私は順当な出世ではなく成り行きで昇進したので、男のメンツを立てるなどの、オールドボーイズネットワーク的な教育は受けていないわけです。それで地雷を踏むようです」

窪田さんの観察眼によれば、何かを企画した時、オールドボーイズネットワークは仲間を探す。資料を作る能力、プレゼン力があるなど目星をつけた男性社員に、個別に「メシ、行かねえか」とか「酒、飲まねえか」とネットワークに誘いをかける。決して、「お前、仲間に入らないか」とは言葉にしない。

「何となく危険だなと思って去る人もいれば、気がつかないまま仲間になってしまっている人も多いですね。私の部下が違う部署の部長の仕事をしていて、そのことを指摘したら、『いやいや、これはいいんです』と。でも結果、その作業は部長がやったことになって、手柄は他部署の部長のものです」

オールドボーイズネットワークに役立つなら、違う部署の仕事を勤務時間内に行うことも大手を振って許される。こうした暗黙のルールが、社内に張り巡らされていた。

業績が悪化すると組織改革のメスが入るが…

一度、リーマンショックによる業績悪化に直面した際、オールドボーイズネットワーク解体の動きが起こり、窪田さんも協力を求められた。

「私もそのために役立つことをしました。結果として、オールドボーイズ的な動きをしていた人たちが、結構、会社を辞めたんです。でも、その後、同じようなネットワークがまた男性社員の中に出現した。始めたのは、それまで全く関与していなかった若い世代の人。もう、遺伝としか、言いようがない。蚊帳の外であっても、彼はそういう動きをちゃんと見ていて、そこに利があると思うから、踏襲したのでしょうね。普通には、そんなことは思いつかないでしょう? そして業績がいいうちは、もう解体の動きは出てこない。表面上はその中心人物の手柄になっているので、その人のおかげで給料をもらえているからと、ネットワークを退治できなくなる」

悪しき慣習が世代を超えて、連綿と受け継がれているという紛れもない実態。窪田さんはたとえ改革に至らなくとも、この事実を伝えていくことが大事だと思っている。

「再雇用で今、働いているのも、会社の本来あるべき姿というものを少しでも残したい、ちょっとでもとどめていたいという思いがあるからです。誰にも望まれていないことかもしれませんが」