困難は、必ず解決策を連れてくる
「KBS京都みたいなローカルテレビ局に本当にできるのか?」
農家に生まれた永守さんは、6人兄弟の末っ子。永守さんが経営者を目指すきっかけは、小学校3年生のときにあった。
私が1年間、密着取材のお願いをしたときに言われた日本電産社長・永守重信さんの言葉が、今でも耳に残っている。
私はKBS京都で毎週金曜日の21時30分から放送の「京bizS」という報道情報番組のキャスターだ。これまで6年間にわたって、京都で奮闘する中小企業を300社以上取材してきた。テレビキャスターというと響きはいいが、地方ローカル局のキャスターは、企画、取材、構成、編集、営業、出演と、なんでもやるいわば便利屋さん。「困難は必ず解決策を連れてくる」と永守さんが言うように、予算も人数も少ない中で、知恵を絞りながら、自転車操業状態でなんとか毎週食いつないでいる。
そしてKBS京都開局60周年の記念特別ドキュメンタリー番組を日本電産社長・永守重信さんへの密着取材でつくることになった。
永守さんは、67歳。1973年、わずか4人の同志とともに「世界一を目指す」と日本電産株式会社を興した。独自の技術でほかにはないモーターを次々と開発。現在ハードディスク用精密モーターでは世界シェア80%を誇っている。最近では、高騰するレアメタルを使わないモーターを開発して話題を集めた。
80年代から、積極的にM&A戦略を展開。赤字つづきの会社をわずか1年で過去最高の利益を生み出す会社に変えてしまう手腕でM&Aの達人ともいわれる。現在では世界中にグループ会社があり従業員およそ15万人をまとめる。「一番以外はビリ」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「情熱・熱意・執念」など、その言葉の数々は刺激的だ。
そんな永守さんに「京都の偉人は京都のメディアが歴史に残さなければいけないんです!」と、半ば強引に、半泣きになりながら直談判して取材を許してもらった。
2011年から12年にかけて放送されたドキュメンタリー「人間、永守重信」は幸いにして大きな反響を呼び、全国各地でも放送された。
本稿は「人間、永守重信」の言葉に焦点を当て、これからの日本を担うビジネスリーダーの一助となることを念頭にしたい。それぐらい強い信念に裏付けられた永守さんの言葉に私の心は揺さぶられたのだ。