2011年7月1日付で、日本電産は精密モーターメーカーの三洋精密を子会社化した。日本電産にとって31社目のM&Aである。三洋精密は、携帯電話用の振動モーターで圧倒的なシェアを持ちながら赤字体質。2011年(3月期)の売上高は264億円。日本と中国であわせて1万3700人の従業員を抱える。7月4日、永守さんは長野県上田市の三洋精密改め日本電産セイミツを初めて訪れ、全従業員の前に立った。
日本電産セイミツの食堂に集められた従業員の表情は一様に緊張し新しい経営者の登場を恐れているようにも見えた。永守さんがM&Aをするときに最も重要視するのが従業員への第一声だ。この反応で成否の半分以上は決まるという。実際、これまでのM&Aで失敗した企業はひとつもない。それどころか過去最大の赤字をわずか1年で過去最高益へと持っていく離れ業もやってのける。自己紹介したのち、永守さんは単刀直入に会社の現状を語り出した。
「ざっくばらんに申し上げて、三洋精密さんは実質的に倒産しています。現に累積赤字をたくさん抱えて、小さな会社でありながら、百数十億の借金を抱えています」
まず赤字でも危機意識が低いかもしれない社員に厳しい現状を伝える。そして、ここからが永守さんらしさが出てくるスピーチだ。
「今日初めてお会いして『私を信用しろ』『私の言うことを全部信じなさい』とそんな大それたことは申し上げません。そんな初めて会った人間を信用できないのは、当たり前です。
だから私が第一声で申し上げたいことは『1年たってうまくいかなければ殴る、蹴る、唾吐く、好き勝手』で結構ですから。
信用してくれなんて言わないけれど、1年だまされて私の言う通りやってみようかという気持ちになっていただけたら、この会社は早期によくなる。そのことは自信を持って申し上げたい」