ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長と永守さんは、ファッションとモーターと分野はまったく違うが、一代で日本を代表する企業に成長させた名経営者である。ソフトバンクの孫正義社長も交えた3人で、真剣な意見交換をしているという。

ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正 やない・ただし
(PANA=写真)

1年間で顕著な活躍をした、優れた創業経営者を顕彰する「2011年度 第13回企業家賞」に審査委員長として出席した永守さんと柳井さんに、尊敬できる経営者とは誰か、と控え室で尋ねた。まず柳井さんが口火を切る。

「僕は偏見かもしれないけど、例えばベンチャービジネスの経営者ってあんまり信用できない。事業に対して、一生思いが続くかどうか。ほとんどの人が、途中で自己満足してしまったり、飽きてしまったりするんです。世の中、楽しいことが多いから、そっちにスッと、いってしまう。それで言い訳する。そうなったらもうダメ」

と、その言葉に永守さんが反応した。

「(ちょっと会社が大きくなると)綺麗な女性が寄ってくる。それで身を滅ぼす。六本木辺りにある会社、地方出身のベンチャーにその傾向が強い」

「それと、もうひとつやっぱり、つるんだらダメです。やっぱりうまくいってない人は、うまくいっていないベンチャー企業ばっかりでつるんでいる」(柳井さん)

「つるんではいけない。仲良しクラブになっちゃう。IPO(新規株式公開)して、5年から10年、いろんな誘惑に乗らないで仕事するという気持ちを持っていけたら、これから日本の経済はさらに伸びていける。

政治がいい加減ですから日本は。ですから企業側がしっかりしないといけない。この政治で企業家がダメになったら、日本は完全にダメになる」(永守さん)

日本電産創業者・社長 永守重信 ながもり・しげのぶ

「永守さんは、僕の先生です。永守さんほど、一生懸命仕事をしている人はいない。話が面白いのだけど、本質を突いているし、人を元気にさせる。そういうところが、僕は素晴らしいな、と思う。尊敬する人、というお尋ねだったけど、そういう意味で、僕が尊敬する人は、永守さんぐらいしか思いつかない」(柳井さん)

11年10月の日曜日、日本電産グループにこの春、入社した新入社員の半年研修が行われた。

実は、この新人社員だが、入社した4月から厳しいことを言われている。日本電産グループの入社式。永守さんは、3月11日の東日本大震災で被災したばかりの従業員に対し、「家は大変だろうけど、片付けは後回しにして工場の復旧を手伝ってほしい」と、指示をした。びっくりしてしまうような過酷な指示だが、永守さんは、その指示の真意をこう話す。

「『しばらくは出社しなくていい』としたあとに解雇されるのと『無理してでも出社してもらって仕事を続ける』のは、果たしてどちらが本当の優しさなのか。

日本のものづくりが世界のサプライチェーンから外される前に、歯を食いしばって、一刻も早く生産を再開すべきだと思った」