財務省の天下り先で知られる大和総研の熊谷亮丸などは、御用評論家として喜んで増税に賛成するのでしょうが、本音では「今この時期、増税してはダメだ」と分かっているエコノミストでも、勤め先に居づらくなる空気では、積極的に反対を唱えることはできないものです。

かの竹中平蔵ですら、テレビの討論番組で「国際公約だから仕方がない(察して下さい)」という状態です(テレビ朝日『朝まで生テレビ!』2013年8月31日)。

水も漏らさぬ木下の根回しは、蟻の這い出る隙間もないほど。安倍首相は木下に抵抗しつつも、追い詰められていきます。

平成25(2013)年9月7日、IOC総会で2020年夏季オリンピックの開催都市に東京が選ばれると、「オリンピックが決まったから増税」という、訳の分からない言説まで飛び出しました。

メディアによく露出している識者が次々と増税に転んでいく中、あくまでも増税反対を貫いた人たちもいます。後に日銀政策委員会審議委員となったエコノミストの片岡剛士など、一歩も退かず筋を曲げなかった立派な人です。消費増税の意見を聞くために政府が設置した有識者会議に呼ばれ、堂々と反対意見を述べています。

増税決定、株価は「ナイアガラ」状態に…

忖度そんたくなしに反対したのは片岡のほか、米イェール大学名誉教授の浜田宏一、筑波大学名誉教授の宍戸駿太郎、大蔵官僚出身の内閣官房参与だった本田悦朗らですが、少数派です。本田ですら、最後には「1年ごとに1%ずつ増税」という妥協案を言わざるを得なくなりました。

世論が「増税やむなしか?」と傾いてもなお、良識派の識者は、目に見えて景気が回復する中、まさか増税して景気を腰折れさせるなどというバカなことをやるわけがないと思っていました。

倉山満『沈鬱の平成政治史 なぜ日本人は報われないのか?』(扶桑社新書)
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少なくとも、アベノミクスが政権の命綱で、消費増税は自らの首を絞めるに他ならないと分かっている。

安倍の公式見解を一応言っておくと、「ギリギリまで考えた」です。周りのほぼすべてが敵に回った環境で「ギリギリまで考えて、自分で決めた」と言わなければならないほど、追い込まれたのです。

10月1日午後6時、安倍は記者会見で消費増税を宣言してしまいます。その前の昼の閣議で「消費税を8%に引き上げる」との決定が伝わった瞬間に、株価が垂直に下がる「ナイアガラ」と呼ばれる現象が起きました。

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