また、国葬中は騒音を避けるために政府がロンドン市内空域を閉鎖し、民間機の乗り入れを一時的にストップする措置もとられた。ただ、英国のように移民が多い国では、「国葬の中継をスマホで食い入るように見ている英国人の真横で、普段と同じような大声で外遊びをしているアジア系移民の家族がいた」(M子さん)という話もあり、全員が全員、女王に弔意を示していたという状況ではなかったようだ。
「最後のお別れ」も沿道に人があふれた
ただ、それでも英女王がどれだけ多くの国民に愛されていたかが分かるシーンがある。国葬が終わり、いよいよ女王の棺が「お墓」となるロンドン西郊外のウィンザー城に送られる際には、テレビ中継を見ていた多くの市民がまたも沿道へと出てお見送りを行った。
ロンドン中心部の道路は国葬のために何日も封鎖され、棺の運搬の日も、ウィンザー城に続く数十キロに及ぶ道路が24時間以上も通行止めになった。沿道で「最後のお別れ」を待つ人々の中には、最前列で見送るために丸3日間歩道で待機した人もいたという。
M子さんの自宅はウィンザー城につながる国道のそばにある。「うちの地区の人々は、老いも若きも全員総出で沿道に出てお見送りしました。あんな状況を見ると、そもそも女王の国葬を行うにあたって、賛成とか反対という論議が生まれること自体信じられません」。国葬の是非を確認すること自体が無粋ということか。
日本では半旗や黙祷まで議論の的になっているが…
たしかに、生前より自身の葬儀のあり方を入念に考えていたエリザベス女王と、突然銃撃され亡くなった安倍元首相の国葬を比較することはおかしいと思う人もいるかもしれない。
だが、今回英国政府が多くの国民と一体になって完璧ともいえる国葬を執り行った様子を目の当たりにしたら、日本では国葬をやるかやらないかだけでなく、半旗の掲揚や黙祷をするかまで「国民や自治体に協力を求めない」と政府がいちいち発表しなければならない状況になっていること自体、残念に思う。
英国民に愛され続けた女王が、地球の裏側で起こっている「国葬の是非問題」を耳にしたらなんとコメントするのだろうか。きっと想像もできないユニークな答えが返ってきそうだ。