女王のこだわりが感じられた“We will meet again”の言葉

ここまでは歴史ある英王室の伝統にのっとった光景が見られたが、国葬では女王が生前より入念に準備していたという“こだわり”が見えた。筆者が特に注目したのは、英国国教会による“説教”だ。

英国の国の宗教は「英国国教会」で、国王が教会の首長(Defender of the Faith、直訳すると「信仰の擁護者」)を務めている。その総本山は世界遺産にもなっているケント州のカンタベリー大聖堂だが、国葬では同聖堂からジャスティン・ウェルビー第105代カンタベリー大主教が説教を行った。

女王は新型コロナウイルスの大流行の初期に「国民が少なくとも2万人は死ぬだろう(結果として16万人以上が亡くなっている)」との予想が出た直後、国民向けの演説で“We will meet again(私たちはきっとまた会うでしょう)”と言ったことがあった。一人でも多くの国民がコロナ禍から逃れ、共にこの災難を無事に乗り越えよう、と訴えたわけだ。

ウェルビー大主教はコロナ防疫を訴える女王の言葉を引用した上で、「今日の悲しみは、亡き女王の家族だけでなく、英国、英連邦、世界のすべての人々が感じている。女王はすでに私たちの前から消えてしまった。この悲しみは、女王の豊かな人生と愛に満ちた人々への奉仕の心を感じているからだ」と述べた。

大型画面に映し出される棺が運ばれる様子を見守る人々
写真提供=M子さん
大型画面に映し出される棺が運ばれる様子を見守る人々

「改めて感謝の念を持った国民は多いのでは」

この女王による“We will meet again”という呼びかけは、国民にコロナへの恐怖を植え付けるには十分すぎるものだった。「また会える」と強調した裏には「会えない人が出る覚悟も」というニュアンスがあったからだ。

M子さんも女王のテレビ演説を見たひとりだが、ウェルビー大主教の説教には感慨深い思いをしたという。「2年半前は女王が病気への恐怖を訴えるような状況は正直信じられなかったけれど、国葬で女王の言葉が引用されたとき、こうして生きていられることに改めて感謝の念を持った国民は多いのではないでしょうか」

バッキンガム宮殿には多くの花束が手向けられていた
写真提供=M子さん
バッキンガム宮殿には多くの花束が手向けられていた

そしてもう一つ、女王のこだわりが見られた点は、国葬の終盤に行われたバグパイプのソロ演奏だ。

これは、女王が毎朝起床する際、モーニングコール代わりにバグパイプを演奏させていたことになぞったもので、国葬では「女王を見送るための最後の演奏」が行われた。選ばれたのは伝統的な哀悼曲「Sleep, Dearie, Sleep」で、ポール・バーンズさんというバグパイプ奏者が誰もいない教会の一角で演奏する姿は、なんとも悲しみを誘った。

「バグパイプで弾く伝統曲はこれまで数多く聴きましたが、葬送の曲なんてまず聴く機会がないんです。女王の国葬のために新しく作曲されたのかな、とさえ思いましたね」(M子さん)