「顔の見えない日本」の地位を引き上げた

さらに、マイケル・オースリン(スタンフォード大学フーバー研究所)が、Foreign Policy Magazineに書いてニューズウィーク日本版(電子版)に転載された「安倍晋三は『顔の見えない日本』の地位を引き上げた」という記事では次のような記述があります。

「アメリカが安定した日本に慣れ過ぎてしまった今、今後は嬉しくない驚きが待っているかもしれない。米政府は過去10年近く、日本の指導者が日米同盟に完全に忠実で、国会でも多数の支持を得られて、世界第3位の経済大国にふさわしい役割を果たすかどうか、心配する必要がなかった。遠くない将来、アメリカと同盟国はそんな安倍時代を懐かしく思う日が来るかもしれない」

日米関係が良かったといったら、小泉・ブッシュ氏時代をあげる人もいます。たしかにそうなのですが、あのときは、ひどい対米追従の結果でした。最も評価されたのが、世界で評判の悪かったイラク戦争を真っ先に無条件に支持したことでした。

ウクライナ侵攻について、ロシアを非難すると、あのイラク戦争のアメリカとどこが違うと反論が出るなど、世界を良くしたとは思えない戦争でした。

それも含めて、小泉外交は、アメリカとは良好でも、世界のほかの国からはまったく評価されないものでした。それに対して、安倍外交は、ほかの国からも評価されました。

「シンゾーを困らせたくない」という鶴の一声

ヨーロッパなどの論調を見ても、安倍さんがトランプ大統領と無駄な対立はせずに、訪日の際などには思いっきり持ち上げ、気まぐれからくる問題の被害を最小限に留めているのは賢いと評価されています。また、中国とどちらが同盟国として大事かというのが議論にならなくなったのもうれしいことです。

八幡和郎『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか』(扶桑社)
八幡和郎『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか』(ワニブックス)

さまざまな方面でのトランプの強硬策は、長期的にはアメリカの信用を傷付けマイナスになる可能性もありましたが、短期的には世界最強のアメリカが力を振り回せば、世界各国はひれ伏すしかありませんでした。そういうなかで、日本やフランスのように、首脳がトランプと良好な関係にある国は、そうでない国に比べればやはり加減してくれています。

日本についても、市場の閉鎖性や対日貿易赤字を批判しつつも、「シンゾーを困らせたくない」ということでだいぶ“お手柔らか”で済んでいたのは間違いありません。

また、トランプ大統領との付き合い方に苦慮したヨーロッパはもちろん、習近平やプーチンなど各国首脳も、安倍さんから知恵を借りる場面が多かったのも特筆ものでした。

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