EU(欧州連合)など世界各国で適用されつつある新しい国際会計基準「IFRS」。正式名称は「国際財務報告基準」だが、一人ひとりのビジネスマンに対する影響は意外にも大きい。
「えっ、何でこんなにも自分の評価が低いんだろう。担当の薄型テレビの売り場では自分の売り上げが一番。毎日仕事を終えてから最新機種の情報を仕入れたり、努力をしてきた。それなのに……」
家電量販店のトップセールスマンを自負するA君は、上司から人事評価のフィードバックを受けて愕然とした。どうしても納得がいかず、上司に理由を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「評価に占める売り上げ実績のウエートが高いことはわかっているよね。その売り上げに対して10%なり15%のポイントをお客さまに付けているじゃないか。今回から、そのポイント分を売り上げから外すことになったんだ。だから君の評価も下がったというわけなんだよ」
なにやら狐につままれたような感じのA君であったが、近い将来、このようなことが私たちの周囲で起こるかもしれない。それというのも、国際財務報告基準(IFRS)が早ければ2015年から上場会社を対象に強制的に適用され、連結財務諸表をこのIFRSに基づいて作成することになるからだ。
そのIFRSが適用されると、なぜポイント分が売上高から除外されるのかは後で触れることにして、まずIFRSの基本的なポイントから見ていこう。
IFRSは投資家が同じ尺度で企業の価値を比較検討できるよう、世界共通の会計基準に基づいた財務諸表を提供していくことを目的に、国際会計基準審議会(IASB)が作成した会計基準。その背景には、経済活動のグローバル化にともなって海外での資金調達やM&Aが活発になったことがある。
IFRSの特徴は、(1)経済実体を重視した会計処理、(2)各企業が採用する会計原則を単一化したり、そこに示されたフレームワークを読み取って自ら判断していく「原則主義」、(3)これまでの貸借対照表に当たる「財政状態計算書」の重視、(4)当期利益に資産などの時価が変動することによる利益を加えた「包括利益」の導入│などである。
EU(欧州連合)各国の上場企業では05年からIFRSに基づいて行う強制適用が始まっている。そして自国の会計基準にIFRSを採用ないしは許容している国は100カ国以上に及ぶ。アジアでは韓国とインドが11年からの採用を決めている。米国は11年に強制適用するかどうかを決定する予定だ。
もちろん日本も無関係ではいられない。09年6月に金融庁の企業会計審議会が「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を発表。まず10年3月期から上場企業の連結決算にIFRSを任意適用することを認め、強制適用については12年をメドに判断することになった。もし強制適用するにしても「少なくとも3年の準備期間が必要」としており、早ければ15年からスタートすることになる。
※すべて雑誌掲載当時