強権が無ければ秩序は保てない

それなら日本はどうか。日本も明治維新で、同じく国民国家をめざした。明治日本が中国と対蹠的に、その目標をおよそ円滑に達成できたのは、日本列島が偶然に国民国家の要件をそなえていたからである。

岡本 隆司『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)
岡本 隆司『悪党たちの中華帝国』(新潮選書)

また日本は史上、ほとんど多元社会の「帝国」システムを経験、運用したことがない。つまり多元的な社会・集団を統合的に共存させるノウハウを有しなかった。近代日本は欧米列強に倣って帝国主義に邁進し、「帝国」になろうとして戦争を起こし、自滅している。日本にとって「帝国」経営は手に余るシロモノだった。

それに対し、中国は歴史的に「帝国」でありながら、「反帝国主義」を叫んで国民国家をめざし、なお「夢」みている。そんな中国を日本人が理解するのは、やはり容易ではない。

中国の歴代指導者がことごとく「悪党」なのは、そうでないと全体の秩序が保てないシステムだったからである。

目前もそうであって、一つでないものを「一つ」にしようとする以上、ポスト習近平が誰であれ、おそらく「悪党」にならざるをえない。「人柄がよさそう」な人物を首相にしたがるわれわれの論理を絶している。

異形の大国・中国を知るために

それなら日本人は間尺にあった「普遍的価値」を持しつつも絶対視することなく、「中華帝国」以来の歴史的システムを知りつくした上で、香港・台湾・チベット・ウイグル問題に対処してゆかねばならない。けだし尖閣や沖縄という自らの課題とも無関係ではないからである。

中国は今やアメリカと比肩、対立しうる大国となった。しかも同時に、「皇帝」支配の「帝国」にもみまがう異形の大国である。

そんな隣人から、われわれは離れることができない。否応なくつきあっていくほかはないのである。あらためて中国と「帝国」と「悪党たち」を歴史に学ぶことが、その一助になると信じたい。

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