世界経済に大きな影響を及ぼす米中の新冷戦はなぜ起きたのか。ジャーナリストの池上彰さんは「経済が発展すれば民主化すると信じてアメリカは中国を支援してきましたが、そうはなりませんでした。一党独裁のまま経済大国になった中国にアメリカが対抗心をむきだしにしたのが米中新冷戦の発端です」という――。

※本稿は、池上彰『知ら恥ベストシリーズ1 知らないと恥をかく中国の大問題 習近平が目指す覇権大国の行方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

米国対中国
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アメリカの対中戦略を転換させたペンス演説

私は立教大学でニュースを切り口に国際情勢を読み解く講義をしています。

「背景にあるものは何か」。自分の頭で読み解く力を鍛えることが、自らの人生を切り開くたくましさにつながると考えているからです。

世界は日々、動いています。小さなニュース、大きなニュースがある中で、やはり転機になるようなビッグニュースといえば、「米中新冷戦」でしょう。

マイク・ペンス演説はアメリカの対中戦略の転換を示すものです。ペンス演説とは、2018年10月4日、アメリカの当時の副大統領マイク・ペンスが、保守系シンクタンク、ハドソン研究所で行った演説のことです。経済大国となった中華人民共和国への容赦ない対抗心をむき出しにしたもので、衝撃的なものでした。

アメリカは中華人民共和国が経済発展すれば、民主主義になると信じていたのに、思いどおりにはならなかった。ペンスは、「アメリカが中国を助ける時代は終わった」と断じました。

東西冷戦は、イデオロギーの対立でした。アメリカは自由と民主主義を「正義」とし、中国へも民主主義を輸出しようとしたのです。しかし中国は、統制経済のまま急速な発展を遂げ、アメリカの覇権をも脅かす存在になりました。

独裁国家は発展途上国が経済成長するのに効率的

独裁国家は意思決定の速さが強みです。発展途上国が経済成長をするうえでは、実に効率的なのです。モデルケースは過去にもあります。

インドネシアの「9月30日事件」(1965年)をご存じでしょうか。インドネシア共産党の武力革命を事前に潰そうとして、軍部により中国系住民50万人が虐殺された事件です。スカルノからスハルトへと最高権力者が交代すると、国民の民主的な自由を制限し、圧倒的な独裁の力で経済成長を遂げました。この事件がインドネシアにとっての一大転機となりました。

独裁といえば大韓民国のパク正煕チョンヒ元大統領もそうです。日本からの支援金を国民に還元せず、インフラに投資することで「漢江ハンガンの奇跡」といわれるほどの経済発展を成し遂げました。トップが有能な場合はうまくいくのです。開発独裁をやればどの国も成功するかというとそうではありません。世襲による独裁の国・北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の国民は悲惨な状態ですし、ロバート・ムガベ大統領の独裁政権が長年続いたジンバブエも大失敗、ウゴ・チャベスから独裁政権を引き継いだニコラス・マドゥロ大統領率いるベネズエラも大失敗です。