民主主義は万能ではない。欠陥だらけ
民主主義とは何か、という話になります。民主主義は万能ではありません。欠陥だらけです。
イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルの名言があります。「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外のすべての政治体制を除けばだが」。でもこれは逆説的に「民主主義こそが最良の政治」と言っているのです。
民主主義のもと、とんでもない人がリーダーになることだってある。間違った選択をしてしまうこともある。いまのように一党独裁の中国が発展し、アラブの春で独裁政権を倒した国々が混乱しているのを見ると、「民主主義は素晴らしい」とは残念ながら言えないでしょう。
でも、チャーチルが言うように、「民主主義が大事」と言っていかなければならないだろうし、そのためのモデルケースをつくっていく必要があると思います。
アラブ世界が民主化に失敗したワケ
アラブの春で、エジプトのムハンマド・ホスニ・ムバラクによる長期独裁政権が倒れたとき、当時、アメリカの国務長官だったヒラリー・クリントンがエジプトを訪れました。
カイロに集まった学生たちと対話集会を開き、「あなたたちの民主化運動によって独裁政権が倒れた。さあこれからはあなたたちが国をつくっていかないと、また独裁政権に戻ってしまうわよ」と発破をかけると、学生たちはみんなキョトンとしていたといいます。
つまり、「独裁政権は倒した。今度は誰かが来て、新しい政治をやってくれるんじゃないか」。エジプトの学生たちはみんな待ちの姿勢だったというのです。ヒラリーは「誰も理解してくれなかった。エジプトの将来に大きな危機感を抱いた」と、2014年に出版した自身の本『困難な選択』の中に書いています。彼女の悪い予感は当たってしまいました。エジプトは軍事政権に戻ったのです。
エジプトはそもそも民主主義の経験、実績、体験がありませんでした。中東のアラブ世界においては、選挙で代表を選び、うまくいかなかったら次の選挙でひっくり返すという仕組みを理解していない人がほとんどです。そんな中で、アメリカ的な民主主義を導入すると混乱するばかりです。さらに言えば、ヨーロッパの国々だっていまでこそ民主主義ですが、昔はそうではなかったのです。さまざまな問題の中から市民革命が起き、何百年もかけて民主主義を築いてきました。民主化というのは、短期間で一気にやろうと思っても無理なのだという、ある種“冷淡”な見方も、どこかで求められているのではないかと思います。