アメリカの息子ブッシュが招いたイラクの大混乱

日本が第2次世界大戦に敗れた後、日本を統治したのはアメリカのダグラス・マッカーサー連合国軍最高司令官です。アメリカは日本と戦争をしている最中に、いずれ日本を占領することになったときどう統治するべきかを研究していました。日本の天皇制をどうするか。

連合国の中には、「戦犯として処刑すべき」との声もある中、マッカーサーは天皇を処刑すると統治機構が崩壊し、国民の反乱が避けられないと判断しました。そこで天皇はそのままに、その上にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)を置いたのです。これにより、アメリカによる戦後の日本統治はうまくいきました。

この歴史に学ばなかったのが、アメリカのジョージ・W・ブッシュ(息子ブッシュ)です。彼は大学時代、中途半端に日本の歴史を学んでいました。どうやら惨憺たる成績だったようですが。2003年、イラクを攻撃するとき、彼は「日本やドイツを見ろ」と言いました。

「かつて日本もドイツもファシズム政権だったけれど、アメリカに負けたら民主化されたじゃないか。イラクを攻撃して、サダム・フセイン政権を倒せば民主化するんだ」という理屈でした。

選挙で代表を選ぶ経験がなければ民主化は難しい

最初は大量破壊兵器を持っていると言って攻撃したのですが、攻撃してみたら大量破壊兵器がなかったので、「イラクを民主化するんだ」と言い出しました。確かに、第2次世界大戦後、日本もドイツも民主化したのはそのとおりです。しかし、ドイツには選挙で代表を選ぶという経験がありました。第2次世界大戦前のドイツのワイマール憲法は、当時は世界で最も民主的といわれていました。

それなのに選挙でアドルフ・ヒトラーを選んでしまうというパラドックスはありましたが、選挙でトップを選ぶ長い歴史がありました。

日本にも、「大正デモクラシー」がありました。さらにもっと遡れば、明治時代には自由民権運動がありました。そして、自分たちで憲法をつくらないといけないと、不十分ではありますが明治憲法ができました。

残念ながら、イラクは民主主義の経験がまったくありませんでした。いつの時代も、王様がいるか、あるいは独裁者がいるかのどちらかだったのです。自分たちで代表を選んで統治しようという発想がまったくないところで「さあ、民主化だ」と押し付けられてもできるわけがない。結果、大混乱となってしまいました。