イノベーションの担い手はアントレプレナー

では、イノベーションの担い手は、いったい誰なのでしょうか?

若きシュンペーターは、その答えとして「アントレプレナー」という言葉を生み出しました。

この言葉は、イノベーションの担い手という意味でイノベーターと言い換えてもいいでしょう。

日本では、アントレプレナーは「企業者」「企業家」「起業家」などと訳されてきました。ただ、アントレプレナーという言葉は、今や日本でも定着しつつあります。そこで本稿では、この言葉を原語のまま使おうと思います。

アントレプレナーとは、一言でいうと、イノベーションを通じて、新しい事業を大きく立ち上げていく人財を指します。

では、どういう人がアントレプレナーになれるのでしょうか?

シュンペーターは、アントレプレナーの特徴を「行動する人」と表現しています。新結合の機会は、ふんだんに存在しています。しかし、それを夢想するだけでは、何も生まれません。「行動」には、未来に向けて大きく踏み出していく志(パーパス)と熱意(パッション)が求められているのです。

シュンペーターの時代、つまり20世紀前半の代表的なアントレプレナーといえば、自動車王ヘンリー・フォードや鉄鋼王アンドリュー・カーネギーでした。日本でいえば、さしずめ三菱グループの創設者の岩崎弥太郎が代表格でしょう。

シュンペーター没後の20世紀後半も、アントレプレナーは続々と登場しています。たとえば、世界最大の小売業ウォルマートの創業者サム・ウォルトン、ヴァージン航空の創始者リチャード・ブランソンなどが挙げられます。日本でも、ホンダの本田宗一郎、ソニーの井深大などの顔ぶれが真っ先に思い浮かびます。

永守重信、柳井正、孫正義は現代のアントレプレナー

では現代のアントレプレナーとしては、誰があげられるでしょうか?

スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスなどのGAFA創業者やイーロン・マスクは、アントレプレナーの殿堂入り間違いなしです。

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写真=iStock.com/franckreporter
※写真はイメージです

日本電産の永守重信、ファーストリテイリングの柳井正、ソフトバンクの孫正義の3人は「大ぼら3兄弟」などと揶揄されていますが、日本を代表するアントレプレナーといえるでしょう。

この人たちは、どれも今や超大企業の顔ぶればかりで、違和感を覚えるかもしれません。しかし、アントレプレナーとは、パーパスとパッションを持って新しい事業を作る人のことだとさきほどいいました。世界に冠たるアントレプレナーは、いずれも当初はベンチャー企業として誕生したことを思い出してください。そしてそこから新しい産業を立ち上げ、チャンピオンにまで成長していったのです。

シュンペーターは、ゼロから1を生むだけのスタートアップを泡沫ほうまつ企業と呼んで相手にしません。世界を創造的に破壊するだけのパワーを持ちえないからです。ゼロから100へと事業をスケールアップさせることこそが、アントレプレナーの腕の見せ所です。

成長の限界を突破するためには、イノベーションが不可欠です。そして、そのイノベーションの担い手である真正アントレプレナーの登場が、今こそ求められているのです。