日本電産の永守重信、ファーストリテイリングの柳井正、ソフトバンクの孫正義。平成期の日本は「失われた30年」を過ごしたが、この3人は自社を超成長させた。京都先端科学大学ビジネススクール教授の名和高司さんは「“イノベーションの父”と呼ばれた経済学者、シュンペーターによれば、不況期こそ次世代成長を仕掛ける絶好の機会。3人の超成長はシュンペーターの理論のとおりだ」という――。(第1回)

※本稿は、名和高司『資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター』(日経BP)の一部を再編集したものです。

オンラインで記者会見するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2022年5月12日、東京都港区
写真=時事通信フォト
オンラインで記者会見するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2022年5月12日、東京都港区

資本主義に背を向けて貧困や飢餓は撲滅できない

今、「成長の限界」が問われています。そして世界は「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」に向けて大きく舵を切ろうとしています。そう、今やおなじみの「SDGs」です。

そもそも、SDGsとは2015年の国連サミットで採択されたもので、「貧困をなくそう」から始まる17の目標には、どれをとっても素晴らしい理想が謳われています。また、「誰ひとり取り残さない」という原則は、まさに人間愛に溢れています。しかもその到達地点は2030年。残された時間は10年を切っています。

しかし、それらは本当に現実になるのでしょうか?

資本主義に背を向けて、貧困や飢餓の撲滅は実現できるのでしょうか?

SDGsは、そのような基本的な生存権にとどまらず、生活、社会、産業構造の抜本的な変換も掲げています。たとえば、石炭や石油などの化石燃料から、クリーンエネルギーへの大転換。消費(使い捨て)型経済から循環(リサイクル)型経済への移行。住み続けられる街づくり。

これらの高い目標を、どうすれば10年以内に達成できるのでしょうか?

SDGsが取り上げている社会課題は、本質的なものばかりです。解決できれば大きな社会価値を生み出すだけでなく、次世代の事業機会にもつながるので、多くの企業はSDGsに積極的に取り組もうとしています。

ただし、そこには大きな落とし穴が待ち構えていることにお気づきでしょうか?

世の中には、社会課題にさいなまれている人は数多く実在しています。すなわち需要はすでに顕在化しているのです。しかし、それにもかかわらず、これまで有効な解決策が出てこなかった。つまり供給が生まれてこないのです。どうしてでしょうか?

実は答えは明確です。儲からないからです。

社会課題を通常のやり方で取り上げようとすると、投資やコストが発生してしまいます。そうなると、利潤を生み続けるという資本主義の原理原則から大きく逸脱しかねません。

利潤追求を目的としないのであれば、非営利事業や公共事業として手がければいいのでは、と考えるかもしれません。しかしその場合でも、資金や税金が底をつくとゲームオーバー。つまり持続可能な解決は期待できません。