社会課題から出発すると間違える
では、次世代のイノベーションの機会はどこにあるのでしょうか? これは学生たちが、常に問いかけてくる質問でもあります。
私は一橋ビジネススクールで10年間、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)や企業変革をテーマに教鞭をとってきました。2022年4月からは、京都先端科学大学に新設されたMBAコースでも、イノベーションやアントレプレナーなどのコースを教えています。
聴講する学生の皆さんは、30代が大半です。いわゆるミレニアル世代、なかにはZ世代まで混じっています。中でも一橋の学生は、7割が外国人、そのうちのさらに9割が中国をはじめとするアジアの国々からの留学生です。いずれの大学でも、学生のほとんどが企業の中で活躍する人たち、あるいはみずから起業を目指す人たちです。いわば、アントレプレナーの卵たちといっていいでしょう。
MZ世代の若者たちは、目をキラキラ輝かせて、イノベーションの機会を探しています。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリではありませんが、SDGsのような世界共通の社会課題の解決にはことのほか高い関心を示しています。持続可能な未来を、自分たちの手で作っていきたいという並外れた意気込みを感じます。ただ、社会課題はあまりにも大きすぎるため、どこから始めていいのかがわからなくて、戸惑ってもいます。
そこで私は、「社会課題から出発すると間違える」と忠告することにしています。すると学生たちは、一瞬キツネにつままれたような表情を見せます。
そこですかさず「あなたの志はなんですか」と問いかけなおすことにしています。
種を明かすと、これは吉田松陰が松下村塾で、やがて明治維新の立役者となる若者たちに語りかけたセリフそのものです。
自分の思いから始めよう
シュンペーターは、外部環境にとらわれるな、と説きました。自分たちの内発的な思いこそが、イノベーションの起点となる、と。アントレプレナーは、「観察の人」から「行動の人」にならなければならない。その時のパワーの源泉は、自らの志(パーパス)と情熱(パッション)なのです。
そして私は、ベルギーの詩人メーテルリンクの『青い鳥』を思い出してもらうことにしています。チルチルとミチルは、幸福の青い鳥を探しに夢の中で冒険の旅にでます。そして夢から覚めてみると、家の中の鳥かごに、探し求めた青い鳥がいたことに気づくのです。
自分の身の回りにこそ、実は貴重なイノベーションの機会が転がっています。それに気づいて行動を起こせる人が、アントレプレナーとなって、いずれ世界を変えるまでにイノベーションの翼を広げていくことができるのです。
MZ世代は、サステナビリティ・ネイティブであると同時に、デジタル・ネイティブでもあります。自分ならではのワクワクする未来を作るという志と情熱に、デジタルパワーを使って大きくスケールさせていくという知恵が加われば、次世代の持続的な成長の扉を拓くことができるでしょう。
そのような彼女、彼らにとって、シュンペーターの教えは学びの宝庫となるはずです。