なぜゴキブリは嫌われるのか。ゴキブリ研究家の柳澤静磨さんは「『不気味な害虫』というイメージが強いが、ゴキブリは決して怖い虫ではなく、愛嬌のあるかわいい生き物だ。嫌悪感をもたれるために、さまざまな都市伝説があるが、その多くは誤解に基づく」という――。
※本稿は、柳澤静磨『ゴキブリ研究はじめました』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
ゴキブリを愛する研究者が考えた、ゴキブリが嫌われる理由
「ゴキブリはなぜ嫌われるんですか?」
あるとき、昆虫館を訪れた方から質問を受けて、私は「うーん」とうなり声を上げました。この質問は、ゴキブリに関する活動をしている中で最もよく聞かれるものです。ゴキブリの講演会をしても、ゴキブリの展示をしても、ゴキブリの取材を受けても、非常に多くの方がこの質問をしてくれます。
はじめのころは、聞かれるたび不思議に思っていました。ゴキブリのことが大好きで大好きで仕方ないという人が「こんなに素晴らしい生き物なのに、なぜみんなは嫌うんだ!」という意図で質問されるのならば、「たしかにそうですね」と同意するのみです。
しかし実際は、この質問をする方のほとんどはゴキブリのことが嫌いでした。ゴキブリを嫌っているのはまさに自分自身なのだから、「なぜ嫌われるのか」なんて今さら質問することではないのでは、と思っていたのです。
ただ、ゴキブリについての活動を続けるうちに、ゴキブリに対する嫌悪感はそう単純なものではないのだとわかってきました。
ゴキブリが嫌われる原因として、まず、ゴキブリ自体の「性質」があります。
「黒くてツヤツヤしている」「予測不可能な動きをする」などなど。とくに大きいのが、「家に入ってくる」という性質です。自宅という安らげる場所に見知らぬ虫が我が物顔で歩いていれば、やはり気持ちが良いものではありません。
家の中に入ってくる虫はたくさんいますが、その中でも体が大きいというのが、ゴキブリが飛び抜けて嫌われている理由でしょう。しかし、ゴキブリの性質だけが問題かというと、そうではないように思われるのです。