※本稿は、高橋瑞樹『大絶滅は、また起きるのか?』(岩波ジュニア新書)の一部を再編集したものです。
人間が引き起こしている「6度目の大絶滅」
「毎日、最大150種もの生きものたちが、この地球上から姿を消している」
国際連合(以下、国連)の生物多様性条約事務局がこのショッキングな見積もりを発表したのは、2007年のことでした。絶滅の速度は加速し続け、現在も生きものは減り続けているのです。
生きものたちは「食う―食われる」「寄生や共生をする」「食べ物やすみかをうばい合ったり、提供したりする」など、たがいに関係しあって生きています。しかし、多くの個性的な生きものたちが姿を消し、彼らがつないできた「生きものの輪」は、いま地球規模で壊れつつあります。研究者たちはこれを6度目の大絶滅と呼んでいます。
じつは、地球では過去にも5度、生きものたちが大絶滅した時期がありました。けれども、いまの私たちが直面している6度目の大絶滅は、過去の大絶滅とは大きく異なります。それは、過去の大絶滅は地質学的な原因によって引き起こされたのに対して、今回の大絶滅はたった1つの生物種、私たち人間が、引き起こそうとしているからです。
人類の進化は不安定な気候環境のなかで起こった
人間はいつ頃から多くの生きものを絶滅に追いこみ始めたのでしょう?
二足歩行をする私たちの祖先(ヒト属)がチンパンジーの祖先と枝分かれしてアフリカ大陸で誕生したのは、600万〜700万年前のことでした。その後、約258万年前から、地軸(北極点と南極点をつらぬく、地球が自転する際の軸)の傾きが4万1000年周期で22.1〜24.5度の間で振れるようになったため、地表が受ける太陽エネルギーの量が変化して、氷河期と間氷期(氷河期と氷河期の間の、比較的温暖で安定した期間)がくり返されるようになりました。
ちなみに、北半球で夏は暑くて冬は寒いという季節変化が生じるのは、地軸の傾きがあるためです。そして私たちはいま、間氷期に生きています。現在の地軸の傾きは約23.4度ですが、少しずつ傾きが小さくなって、氷河期に向かう段階にあります。つまり、ヒト属の進化は、氷河期と間氷期がくり返される不安定な気候環境のなかで起こったのです。
そしてこの気候の不安定さこそが、ヒト属が道具を利用したり社会性を獲得したりして、環境適応能力(自然環境を都合の良いように操作する能力)を高めながら進化を続ける土台になった、と考えられています。