うっかり聞いてしまった息子たちの会話の中身

私は病院に行って医者に頼みました。息子をもとに戻してください、助けてくださいって。洗いざらい話して……あの子を検査して診てもらいましたが、神経根炎と診断されただけでした。

心理学者は悲しい男性兵士、PTSDとのセラピーセッション
写真=iStock.com/Motortion
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あるとき家に帰ると、見慣れない若者が四人テーブルを囲んでいました。

「こいつら、アフガンから帰ってきたばっかりなんだ。駅で会ったんだけど、泊まるところがないんだって」

「じゃあおいしいパイを作るわ。すぐにできますからね」。私は不思議と嬉しくなってしまって。

その子たちはうちに一週間いました。数えたわけじゃないけど、ウォッカを三箱は飲んでいきました。毎晩帰ってくると知らない若者が五人いて、その五人目はうちの息子で……。

あの子たちの会話は、怖くて聞きたくなかった。でも、うちにいるんだもの……うっかり聞いてしまって……。

そのとき話していたのは、二週間続けて待ち伏せする任務につくとき、攻撃的になれるように興奮剤が配られたこと。だけどすべて口外してはならないということ。それから、どんな武器で殺すのがいいか……どのくらいの距離がいいか……。

あとになって思い出しました、あれが起きてしまったあとに……。それでよく考えてみて、ぞっとしたんです。それまではただ怖くて、「ああ、あの子たちみんな気が違ってしまったみたい。どうかしているわ」と思っていただけでした。

「夢の中ではいたいけな子供」息子はもう帰ってこない

夜……あの子が人を殺すその前の晩に……夢をみました。私はあの子を待っているのに、いくら待っても帰ってきません。そこへ、あの子が運ばれてきて……。運んできたのは例の、四人のアフガン帰りの若者でした。そして汚れたコンクリートの床に放り出すんです。つまり、うちの床が剥き出しのコンクリートになってたんです……うちの台所が――まるで刑務所みたいに。

そのころにはもう、息子は通信工科大の予備科に通い始めていました。いい小論文も書いて。すべてがうまく運び、幸せそうでした。私も、もうあの子は大丈夫だと思うようになっていました。あとは大学に入って、いずれは結婚もして――と。

でも夜になると……私は夜が怖かった……あの子は安楽椅子に座り、じっと壁を睨むんです。そしてそのまま寝入ってしまう……。私は駆け寄ってあの子を抱きしめてあげたかった、どこにも行かせたくなかった。

最近、夢をみるの――あの子はまだ子供で、なにか食べたいってねだるんです……決まってお腹を空かせていて、両手を差しだして……。夢のなかのあの子はいつだって、いたいけな子供。でも現実の世界では、二カ月に一度の面会があるきりです。ガラス越しに四時間、話ができるだけ……。

年に二回の面会のときは、少しは手料理を食べさせてあげられます。あの犬の鳴き声が響くなかでだけど……。夢のなかでもあの犬が吠えて、あちこちから私を追いかけてくるんです。