「何かがおかしい」言葉で表せない違和感

その夜、うちに近所のご家族が来ました。鮮やかな青いリボンを結んだ女の子を連れて。息子はその子を膝にのせて抱きしめて、泣きだしてしまった。涙がとめどなく流れて……。息子も、戦地では人を殺してきたんだもの……。そうと気づいたのは、あとになってからだけど。

入国の際にあの子は税関で外国製の水泳パンツを無理やり脱がされて没収されたそうです。アメリカ製品は持ち込み禁止だからって……。だからあの子は下着もはかずに帰ってきた。四十歳のお祝いに私にくれるはずだったガウンも、おばあちゃんにあげるはずのスカーフも取りあげられて。グラジオラスの花束だけは持ってきました。だけど、まったく嬉しそうじゃなかった。

朝起きたときはまだ普通にしてるの――「おはよう、母さん」って。でも夜になるにつれて表情に翳りがさし、目つきもどんよりとして……うまく言葉にできないけど……。はじめは、お酒は一滴も飲まなかった……。ただソファに座ってじっと壁を見つめていたかと思うと、不意に立ちあがって上着を掴んで……。

私はドアの前に立ちはだかって、

「ワーリュシカ、どこへ行くの?」

って訊いたわ。でもあの子はまるでからっぽの空間を見るような目で私を見て、出ていってしまった。

「傷だらけの腕」息子は理由を話さなかった

職場から帰るのは遅い時間だった。勤め先の工場が遠いうえに、遅番だから。だけどベルを鳴らしても、あの子はドアを開けてくれないんです。声を聞いても誰だかわかってくれなくて。

そんなのっておかしいでしょう、友達の声ならまだしも母親の声を忘れるなんて。しかも「ワーリュシカ」って呼ぶのは私だけなのに。あの子はまるで絶えず誰かが来るのを予期して、怯えているみたいでした。新しいシャツを買ってきて、サイズを合わせてみようとしたとき――腕が傷だらけなのに気づきました。

「どうしたの、これ」
「なんでもないよ」

あとになってから知ったんです。裁判のあと……。訓練所(ウチェプカ)で何度も手首を切ったって……。

模範演習のときあの子は通信兵で、携帯無線機を木の上にいる兵士に渡すのが間に合わず、決められた時間内にできなかったそうです。それで下士官がトイレの汚水をバケツに五十杯汲ませて、隊列の前を通って運ぶよう命じました。あの子は運んでいる途中で気を失ってしまって、病院で軽い精神性ショックと診断されたその夜、手首を切ったそうです。

二度目はアフガニスタンで……奇襲の直前の点検で携帯無線機の故障が見つかったとき――予備のない部品がなくなり、隊の誰かが盗んだということになって……。犯人探しが始まると、隊長があの子を臆病者呼ばわりして、さもあの子が皆と一緒に行きたくなくて部品を隠したとでもいうように非難したそうです。