ロシアのウクライナ侵攻に対し、湾岸戦争時のような「多国籍軍」が編成される兆しはない。前ウクライナ大使の倉井高志さんは「国連の紛争解決システムは残念ながら機能しなかった。他国の軍事侵攻にはNATOのような集団防衛機構への加盟か、自国の軍事力で対抗するしかないという冷酷な現実を、われわれは突きつけられている」という――。(第4回)

※本稿は、倉井高志『世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

激戦が続くドネツク付近の前線で、アメリカが供与したM777榴弾砲を撃つウクライナ軍の兵士=2022年6月6日
写真=EPA/時事通信フォト
激戦が続くドネツク付近の前線で、アメリカが供与したM777榴弾砲を撃つウクライナ軍の兵士=2022年6月6日

機能しなかった安保理の紛争解決システム

今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、誰もが心の底では理解しながら口に出して言うには躊躇を感じる、いくつかの冷厳な事実を改めて認識させることとなった。

それは第一に、結局のところ「力には力で対処するしかない」ということ。第二は「軍事大国に対抗するためには自ら軍事大国になるか、あるいは軍事大国を含む集団防衛体制の中に組み込まれるしかない」ということ。そして第三は「国連安保理常任理事国が何らかの形で関与する紛争に対して、安保理の紛争解決システムは機能しない」ということである。

米国もNATOも「部隊派遣は行なわない」と明言

今回の軍事侵攻が開始される以前から、米国のバイデン大統領もNATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長も、ウクライナへの部隊派遣は行なわないと明言していた。これにはウクライナがNATO加盟国でない(よって防衛義務がない)という形式論だけではなく、米国や欧州の世論がそれを受け入れないであろうとの判断、及びロシアとの直接対決のエスカレーション・リスクの予測が困難であることが背景にあったと思われる。

3月中旬の時点でポーランドが行なった、MIG-29S戦闘機等をドイツの米軍基地経由で(要するに米国が提供する形で)ウクライナに供与するとの提案も米国は拒否した。このときバイデン大統領はその理由として、「攻撃的兵器や米国軍人のパイロットを含む航空機や戦車を投入すること」は「第三次世界大戦」になりかねない、との懸念に言及していた。