イギリスの公共放送BBCが受信料の全廃を含めた制度全体の見直しを進めている。ロンドン在住ジャーナリストの木村正人さんは「歴史的なインフレで受信料が高齢者の家計を圧迫している。受信料の値上げは政権支持率に直結するため、BBCは改革を迫られている」という――。
BBCテレビジョンセンター
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BBCの受信料制度が「存亡の危機」

今年、開局100周年を迎える英国放送協会(BBC)を支える受信料制度が「存亡の危機」に瀕している。

今年1月の英紙タイムズとYouTubeの世論調査によると、生でBBCを視聴する18~30歳は20人に1人。24%が受信料制度の存続を支持する一方で、17%がサブスクリプションモデルを支持した。35%と最も人気があったのは民間放送の広告モデルだった。若者世代にソッポを向かれるBBCは大改革を迫られている。その背景を探った。

2005年に外部から登用されてBBC改革に取り組み、20年6月に会長に抜擢されたティム・デイビー氏は5月23日、英上院通信・デジタル委員会で「世界が進化していく中で『よし、そのための正しい資金調達の仕組みは何だろう』と心を開く必要がある」と受信料制度を抜本的に見直す考えを示した。

BBCで政治番組の司会を担当していた大物ジャーナリスト、アンドリュー・ニール氏は、ニュース、子供向け番組、主要スポーツイベントなど「コア」なサービスを税金の一部で運営する公共サービス放送として維持する一方で、より商業的な娯楽やドラマを視聴する人には上乗せ料金を支払ってもらう「2階建てモデル」を同委員会に提案している。

彼自身の政治番組「アンドリュー・ニール・ショー」は予算削減のため20年3月に廃止された。右派の声を伝える米FOXニュースのイギリス版GBニュースが昨年6月に開局した際、ニール氏は一時、会長職に就いたこともある。

受信料制度の見直しは「あらゆる選択肢を検討」

受信料見直しについては、全廃してサブスクリプションモデルや広告モデルに完全移行するほか、受信料制度の一部を残してサブスクリプション、広告を組み合わせるハイブリッドモデルも取り沙汰されるが、実際のところ、まだ何も決まっていない。

ニール氏の「2階建てモデル」について、英与党・保守党の大口献金者で米大手金融出身のリチャード・シャープBBC理事長は同じ上院委員会でこう証言した。

「理事会は何も除外していない。白紙に戻して考えている。BBCが存亡の危機に直面しているという事実を突き付けられ、理事会はそれを非常に真剣に受け止め、先入観を持たずにあらゆる選択肢を検討する必要に迫られている」。シャープ理事長は「受信料制度は完全に時代遅れ」という英与党・保守党の意向を汲んで、受信料制度改革に動いている。

一部の番組やサービスを有料化する可能性について、デイビー氏は、現在の受信料制度を未検証のモデルに置き換えるのはかなりの危険を伴うとした上で「それを間違えた場合、非常に高くつく恐れがある。正しい選択をするという点では、非常に大きな賭けだ。どのようなモデルに進化するにしても非常に重要な移行をしなければならない」との姿勢を示した。