「現在の英政府はBBCに関心がない」
EU強硬離脱を主導したジョンソン首相は19年、残留派と離脱派のバランスを取りながら公平な報道に努めたBBCを「Brexit Bashing Corporation(ブレグジット叩きの協会)」「出演者には高額の報酬を支払う余裕があるのに、無料だった75歳以上にも受信料を課した」と批判するなど、強硬離脱派のフラストレーションをぶちまけた。
1982年のフォークランド紛争でも、マーガレット・サッチャー英首相(当時)が「BBCは少数の(英機動部隊を大西洋8000マイル南下させてアルゼンチン軍を撃退することに)反対する声を誇張して伝えた」「わが軍ではなく(客観的に)英軍と呼んだ」と激怒した。BBCは受信料ではなく広告で資金を調達すべきだと主張し、コントロールしようとした。
ヘンディ氏は「現在の政府は(サッチャー氏とは異なり、そもそも)BBCに関心がない」と声を落とす。「労働党政権でも保守党政権でもBBCとの衝突は昔からあった。しかし現在の保守党は『BBCは集団主義的で社会主義的な国家組織だ』『非効率で共産主義的な社会主義者がたくさんいる』というイデオロギーに凝り固まっている」
「BBCは誰も見たり聞いたりしたくないようなつまらないものをやっていればいいと考えている。その特徴はその範囲とリーチの広さなのだが、現政府はより小さな、競争力のないBBCを望んでいる。受信料据え置きや減額による衰退は本当に危険だ。ポピュリスト的な性格を持つ政府が短期的な政治ゲームのためBBCを見捨てるという状況は十分に起こり得る」
ウクライナ報道以外では陳腐な番組作りが目立つようになった
イギリスでも前出のGBニュース登場が物語るように報道の右傾化が始まっている。ウクライナ戦争の報道で気を吐いたBBCだが、その他の報道番組はニュースの使い回しや専門家のインタビューで構成する安易な作りが目立つようになった。インフレがこの調子で高進すればBBCは一段の予算削減を強いられる。
ヘンディ氏は最近のBBCの報道ぶりについてこんな危惧を示した。
「ブレグジット報道では合理性と感情のバランスを取るのに苦労した。しかし本当の問題は公平性ではなくバランスを重視してしまったことにある。BBCの編集責任者が、地球は平らだと信じる人が十分に多ければ、それを反映させなければならないと語った。公平性とは、異なる考えを公平に扱いながら、証拠を吟味して確固たる結論を出すことなのに……」