番組作りの経費や放映権料も高騰

BBCに出演するプレゼンターの高額報酬は「格差の象徴」と世間の批判を浴びて減額されたものの、サッカー元イングランド代表ゲーリー・リネカー氏136万ポンド、女性司会者ゾーイ・ボール氏113万ポンドと、出演者の報酬は目が飛び出すほど高い。BBCは予算削減のため、先の「アンドリュー・ニール・ショー」のように報道番組の一部を打ち切った。

イギリスのクリエイティブ産業は2019年時点で国内総生産(GDP)の5.9%に相当する1159億ポンドを生み出している。オンライン、衛星放送、ストリーミングサービスを含め、スポーツなどのコンテンツや番組やドラマ作りのためのタレント争奪戦が激化し、放映権料や報酬は高騰している。

英国のコインと5ポンド、10ポンド札
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ネットフリックスやアマゾンプライムなどストリーミングサービスが台頭する中、ドリス氏は「BBC商業部門の借入限度額を倍以上の7億5000万ポンドに引き上げる。これによってBBCは野心的な商業成長戦略を追求し、イギリス全体の創造的経済への投資を促進するために民間資金を利用することができるようになる」と強調した。

ドリス氏によれば、放送は10年前には想像できなかったぐらい激変している。「私たちはストリーミングの巨人、オンデマンド、ペイパービュー、スマートTVの世界に生きている。テクノロジーがすべてを変えた。97%の家庭が超高速ブロードバンドを導入し、家の中で5種類の映画を同時にストリーミング再生できる。ネットワークはさらに大きく変化する」

さらに4月の英誌スペクテイターのインタビューでは「BBCの受信料モデルは完全に時代遅れだ。資金調達方法についての決定は27年のロイヤル・チャーターの更新よりずっと前に行われる」と言い切った。

新著『BBC:メディアを拓く歴史』を出版したBBCの元ジャーナリスト兼プロデューサーで英サセックス大学のデービッド・ヘンディ名誉教授(専門はメディア・撮影)は「BBCは無線電信会社の分社として始まり、技術革新とともに発展してきた。インターネットにも先頭に立って対応した。BBCにとって恐いのはテクノロジーより政治だ」と危機感を募らせる。

BBCの信頼性は群を抜いている

海外向け国際放送、BBCワールドサービスは週に世界の4億3800万人にニュースや情報を届けている。ウクライナ戦争で改めて浮き彫りになったように、中国やロシアが垂れ流す偽情報やプロパガンダに対抗するため、BBCワールドサービスの役割はますます重要になっている。こうしたことから英外務省は年間9440万ポンドを投じている。

英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所の「デジタルニュース・リポート」21年版によると、BBCの利用度、信頼性はイギリスでは他社の追従を許さない。TV・ラジオ・プリンティングでBBCを毎週使う人は57%、オンラインでも46%を占める。

コロナ危機でニュースの消費量は増えたものの、20年7月、BBCは予算削減のためニュース部門520人の解雇を発表した。受信料据え置きと急激なインフレ高進でさらなる人員削減は避けられまい。