デジタル化に投資して得意な自動車分野をさらに伸ばす

——日本の年間平均賃金は2020年の時点で、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中22位と、振るいません。米国はトップですが、韓国も19位と、日本を上回っています。

第1回で、日本企業の労働分配率低下について話しましたが、日本が生産性の点で他国に水をあけられていることが問題です。

日本には、労働市場内での移動という柔軟性に加え、(解雇や非正規労働者の採用など)規制緩和がもっと必要だという声もあるでしょうが、私の意見は違います。日本に必要なのは、人材や人的資本、スキルへの投資です。

かつて、質の高いスキルは日本の強みでした。それを取り戻すべく、デジタル化に投資すべきです。今や自動車の製造でも、ソフトウエアが大きな部分を占めており、その重要性は増しています。

日本は、自国の強みである自動車業界のスキルを強化する必要があります。

数字に表れない、国の総体的パフォーマンスもある

——しかし、経済成長のカギは先進テクノロジーでなく、人口の増加だという声もあります。そうだとすれば、日本には希望がなくなってしまいます。

そのような見方はナンセンスのひと言です。問題は国民1人当たりの所得であって、国内総生産(GDP)の総計ではありません。

まず、重要なのは国民1人当たりの所得であり、次が、そうした数字では表せない国民の幸福度です。国民の幸福とは、健康や治安、教育、長寿など、社会的パフォーマンス指標のことです。日本はその点で、かなり優れています。

経済成長に固執するのは間違っています。国の総体的なパフォーマンスを見れば、日本は大半の指標で、米国のはるか上を行っています。確かにGDPや生産性を比べれば、米国のほうが上です。

しかし、格差や貧困の度合い、読み書きの能力や健康、長寿、犯罪の少なさでは、日本が勝っています。大半の社会的パフォーマンスでは、日本のほうが上なのです。