日本は自信を失っている

——日本の読者にメッセージを。

自国の強みと弱みが何かを考え、強みを強化する一方で、弱みの改善に取り組むべきです。そのためには、まず、自分たちの強みに自信を持たなければなりません。というのも、昨今、日本の弱さは、自国の強みに自信を失っていることからくるものだからです。

1980年代には、その逆で、自信過剰だったかもしれません。しかし、現在は自信がなさすぎます。

強調しますが、強みをキープすることが重要です。

真っ先に挙げられるのが教育水準の高さです。小学校から高校まで、日本の教育水準は、まさに「奇跡」のひと言でした。高レベルの読み書き・計算の能力や平均・下位層の教育水準の高さは、米国に比べて並外れたものでした。

しかし、そうした教育水準の高さが低下しているように見えます。それが問題なのです。日本は、自国の強みに対する自信を取り戻し、誇りを持ち、それをキープし、強化しなければなりません。

高層ビルの谷間でこぶしを突き上げるビジネスマン
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

それぞれの国が、目指すべきゴールについて真剣に考えるべき

もう1つのメッセージは、GDP総計には意味がないということです。重要なのは、国民一人ひとりの幸福や心身の健康です。GDPから幸福・心身の健康へと、ひとたび目を転じれば、日本が何を追求すべきかについて、違った見方が生まれます。

GDPの成長率にこだわるべきではないということは、米国のコロナ禍の経験からもわかります。株価やGDPのアップが「勝利」を意味するのなら、確かに米国は「勝った」と言えます。

しかし、その一方で、米国では、おびただしい数の人々がコロナ禍で命を落としました。これでは、「勝った」などと言えません。

だからこそ、私たちは、自分たちが目指すべきゴールについて、真剣に考えなければならないのです。

スティーヴン・ヴォーゲル
カリフォルニア大学バークレー校教授
政治経済学者。先進国、主に日本の政治経済が専門。プリンストン大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号(政治学)を取得。ジャパン・タイムズの記者として東京で、フリージャーナリストとしてフランスで勤務した。著書に『Marketcraft: How Governments Make Markets Work』などがある。
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